2016 Fiscal Year Research-status Report
水の構造化による細胞の冷温保存における障害低減効果
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15K05840
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
氏平 政伸 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (70286392)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水構造化 / キセノンガス / ガラス表面 / 薄膜液 / 細胞障害低減効果 / 冷温保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,水の構造化による物質輸送の抑制効果に着目し,キセノン(Xe)ガス加圧と固体表面を利用した薄膜液の2つのアプローチによる冷温障害低減効果を細胞レベルで明らかにすることを目的とし昨年度に続き実験を遂行した. 本年度は,第1に,昨年からの継続として単層培養ヒト皮膚繊維芽細胞を用いた冷温保存におけるXeガス加圧による細胞障害低減効果に及ぼす温度の影響についてデータを追加し詳細に調べた.その結果,温度範囲-2℃~4℃,Xeガス加圧圧力0.5MPaの条件(保存時間18時間)において,4℃が最も効果的な温度であることが明らかとなった.また,水構造化の程度を探り保護効果のメカニズムを検証するため,温度(-2℃~4℃)をパラメータとして落球法による粘度測定の予備実験を行った.その結果,差は小さかったが4℃における粘度が他の測定温度のものよりも高値となることが示唆された. 第2に,2枚のガラス板を固体表面として用い,片方のガラス板表面に培養した単層ヒト皮膚繊維芽細胞と薄膜状の培養液をもう1枚のガラス板で挟み込むことで細胞内外における水構造化の実現を狙った試料の冷温保存(4℃)における細胞障害低減効果について調べた.昨年度よりも作成方法を改善し,ガラス板に挟み込む液厚をより一定値(約10マイクロメートルに制御)に揃えた試料と挟み込まない試料を用いて保存時間(0~48時間)をパラメータとして詳細に検討した.その結果,保存時間が18時間以上の条件において,板状ガラスに皮膚繊維芽細胞と共に溶液を挟み込んだ試料の方が挟み込まない試料(コントロール試料)よりも冷温による細胞障害が低減されることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.キセノンガス加圧実験 当初予定していたのは,Xeガスを温度範囲-2~4℃,加圧圧力0.4,0.5MPaの条件で一定時間(18時間)冷温保存した後に細胞活性を評価し,加圧しない場合と比較することで,細胞障害低減効果のXeガス添加圧力依存性と温度依存性を検討することであった.実際には,昨年度のデータに本年度のデータを加えることで細胞障害低減効果の温度依存性を明らかにすることが出来た.よってほぼ予定通りである.また,Xeガスを試料に加圧した状態で観察可能な透明耐圧容器を用いて落球法により各条件における粘度測定から水の構造化の程度を探ることも予定していた.実際には,予備実験を行い4℃における粘度が他の温度のものよりも少しだけ高くなることが示唆されたため,これもほぼ予定通りと言える. 2.固体表面を利用した薄膜液の実験 本年度の予定は,播種細胞数と液膜の厚さが制御された実験試料作りを確立し,培養液膜中で同じカバーガラスで挟み込んだ試料と挟まない試料で冷温保存を行い,復温後の細胞活性測定により細胞障害低減効果が得られるかどうか昨年よりもデータ数を増やすことを含めて詳細に調べることであった.このことについては,試料作りを確立することが出来,しかも,細胞障害低減効果が示されたため,ほぼ予定通りであったと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
1.キセノンガス加圧実験 本年度は水構造化の程度を調べるために落球粘度法による粘度測定を試みたが,準備に時間がかかったため保存温度と加圧圧力の依存性のデータが完全にはとれなかった.来年度はこのデータ数と条件を増やし保護メカニズムを検証すると共に,冷温保存実験の温度範囲(4~-2℃)を低温側(例えば-3~-5℃)と高温側(例えば5~10℃)に温度範囲の拡大を図り,18hよりも長い保存時間のデータも取る予定である.また,保存温度においてキセノンハイドレート生成を抑制する手段を探る予定である. 2.固体表面を利用した薄膜液実験 本年度はカバーガラスで挟み込んだ薄膜液による細胞試料の作製法を確立し,実験により低温に対する細胞障害低減効果は示された.しかし,次の段階として応用の可能性を探るためには細胞障害低減のメカニズムを明らかにする必要がある.そこで,今後はメカニズムを追求(方法は思案中)することと,本年度よりもさらに保存時間を延ばす(48時間以上)ことを考えている.
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Causes of Carryover |
細胞活性の測定のための分光光度計が故障し修理費用を支出しようとしたが,見積もりを行ったところ残高(約3万円)よりも大きかった(約5万円)ので本年度は支出せず来年度分と合わせて支出することとした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上の理由にあるように,本年度の残金と来年度分を合わせて分光光度計の修理代金を支出する予定である.
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Research Products
(2 results)