2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K05857
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
鎌倉 友男 電気通信大学, 産学官連携センター, 特任教授 (50109279)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超指向性スピーカ / 超音波 / 非線形性 / 自己復調 / 大音響化 / 飽和現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
超音波の非線形伝搬に伴う自己復調現象を活用したパラメトリックスピーカ(超音波スピーカ)は,小口径でありながら指向性の鋭さに大きな特長がある。このスピーカは,現在,ある特定の領域にいる人のみに音声や音響信号の情報を提供する,またトンネルや地下街の壁等の音反射に伴う残響を低減し,音源信号と同じ明瞭度を保ったまま音響信号を伝送するなど,音環境改善の一方策のデバイスとして広く利用されつつある。本研究課題は,非線形伝搬に際して発生する音響信号の歪み低減化と,パラメトリックスピーカの具体的応用の検討を進めることにある。前年度は,前者の歪み低減化について検討するため,波形再生プロセスを定式化し,その波形の予測を理論と実験で進めてきた。そして,歪み低減の実現に向けての指針を得た。今年度は,後者の工学的応用について準備を行った。この課題として,光のように細ビーム幅の音波を長距離伝搬させる音響システムの実現を目指した。具体的には,数百メートル離れたある特定の小領域の人に,アラーム音を伝える装置の実現について,理論と実験で検証を行った。理論により,キャリア超音波の周波数を従来の40 kHzから下げることで,超音波から可聴音への変換効率がおよそ6~10 dB上昇すること,また再生可聴音のビーム幅も狭まることが予測できた。そこで,25 kHzの市販の超音波センサを多数利用した104 cm×80 cmの大開口超音波エミッタを試作し,音場の基礎データを得る実験を行った。その結果,理論予測のように,大開口化によりおよそ800 mまでの長距離に対し,音響信号を聞き得ることができた。しかも,使用した超音波センサの周波数特性に起因して,従来の40 kHz用センサを用いたときよりも低域周波数特性が上昇し,音声信号を聞く際の違和感が低減した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小口径でありながら鋭い指向性という点で特長のあるパラメトリックスピーカは,多くの応用が考えられている。しかしながら,再生される可聴音に多くの歪みが含まれること,最終的な実用化において,超音波が聴覚に与える曝露問題を解決する必要がある,また,電気パワーから可聴音の音響パワーへの変換効率が低いことの課題が未解決のままである。超音波曝露の課題は,聴取位置がスピーカから遠く離れるほど超音波自体減衰が大きいことから解決される。歪みの低減化は,前年度に行った非線形システムの定式化で解決できるが,超音波エミッタ自体の歪み発生要因もあり,複雑である。一方,一般に可聴音の音圧が超音波の音圧の2乗で増加し,また超音波の音圧は超音波エミッタに加える電圧に比例することから,変換効率は駆動電圧を上げれば上昇すると考えられる。この考えに基づき,本音響システムの応用の一環として大音響長距離音響放射システムを構築し,実験を推進した。しかし,非線形特有の現象,すなわち,駆動電圧があるレベル以上になると送波音圧レベルが頭打ちになる,いわゆる飽和現象が存在することが判明した。したがって,大音量化においては,この飽和現象を考慮の上検討する必要がある。この飽和はKZK非線形方程式を利用した理論でも確認されたことは本研究の実施に伴うひとつの成果といえる。更に,エミッタの口径を大きくして大音量化を行うことは,特に再生周波数が高いときには従来の線形音源と同じ指向性に近づくことから,パラメトリックスピーカとしての特長が失われることも判明した。以上の課題点から,大音量化を伴う長距離音響放射システムの開発研究には遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
パラメトリックスピーカの大きな特長は,小口径でありながら線形理論では予想できない鋭い指向性を実現できることにある。このことは理論でも予想できることであるが,本年度のフィールド音圧計測を通して実証された。一般に,市販の超音波センサでも共振周波数付近の帯域に違いが表れ,再生可聴音の低周波成分が上昇し,聴感上,音源信号により近い音声信号が再生できる場合があることも実験で分かった。具体的には,従来の40 kHzのエミッタよりも,今年度試作した25 kHzの超音波エミッタのほうが低域の音圧レベルの上昇が感じられた。この点については今までにない研究成果であり,この結果に対して理論的な根拠を示し,音声明瞭度向上への関連性について基礎データの収集を行う予定である。また,これらの問題・課題を解明しつつ,新しい具体的な応用について更なる研究を推進することも予定に含めている。
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Causes of Carryover |
今年度の前半で,前年度に推進した低歪み化に関する理論的な研究成果を適切に変調回路としてハードウエアとソフトウエア両面から組み込む予定であった。しかし,変調回路の一部の帰還回路が不完全で発振状態が続き,現時点,理論に基づいた回路の構築が完成していない。支出の余剰の大きな理由は,そこにある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も引き続き,低歪み化に特化したパラメトリックスピーカ用変調回路の構築を進める。特に,パラメトリックスピーカ駆動用に必須な複雑な変調回路をハイレゾの録音装置に置き換え,システムを簡素化する。その他,研究課題として当初取り上げたパラメトリックスピーカの応用についても,長距離音響伝送システムをはじめとして,いくつかのアイデアの実現のために基礎データを収集する。そして,これらの課題解決のために適切に予算を使用する。
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