2017 Fiscal Year Research-status Report
ミュラー行列測定による巨大光誘起変形材料の光学特性評価とその応用
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15K05993
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
沈 用球 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20336803)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光誘起変形 / 多元化合物半導体 / 偏光計測 / ミュラー行列 / エリプソメトリ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに構築した2次元イメージング計測が可能なイメージングミュラー行列測定系(IMM)を用いて,3元タリウム化合物に対する光照射時の光学定数変化のイメージング計測を行いその原因解明と光学応用に向けた研究を行った。3元タリウム化合物の1種であるTlInS2に対して,光照射による(001)面内の屈折率変化の空間分布を測定した結果,一般的な圧電体を利用した光弾性光学素子と同程度の変化量(複屈折で10-4程度)が光照射により生じていることを確認することができた。また,屈折率楕円体の方向の回転も確認できたことから,光を利用した屈折率楕円体の空間分布を制御することで,新たな偏光制御素子や光偏向素子など光学素子としての応用可能性を示す事が出来た。 本現象の原因解明については,有限要素法によるシミュレーション解析結果と比較する事で光誘起された結晶内歪と光学定数変化との関係を明らかにした。これらの結果から,本現象の主たる要因は光熱変換に伴う熱膨張であることが判明し,さらに,光照射により熱膨張係数の値が文献値と比較し1桁以上大きくなっていることが原因と推測された。 一方で,3元タリウム化合物における,基礎物性として電子準位構造について,理論的なアプローチを進めた。第一原理バンド構造計算から,Tl原子の周期構造の変化がバンド構造に及ぼす影響を明らかにした。 本研究課程で,TlInS2の中でも,光照射による屈折率変化分布が異なる,2つのタイプの試料の存在が明らかになった。解析結果から,光照射時のせん断歪分布が異なることが原因であることがわかった。そこで,両タイプの決定的な違いに関する考察するため,光誘起変形現象の温度特性の計測を試みた。その結果,両タイプで温度特性が著しく異なることが判明したが,さらなる原因解明のための,本現象の温度や構造相転移との関係を明らかにする必要が生じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究計画で,中心となる課題として,前年度から継続した課題である「光誘起変形が光学特性に与える影響評価」に加えて,「新しい光制御の光学素子としての実証評価」を掲げていた。期間中,イメージングミュラー行列測定系(IMM)を用いた3元タリウム化合物の光照射による光学定数変化およびその空間分布の計測,さらに有限要素法によるシミュレーション計算結果から,光誘起変形で生じた弾性応力分布,歪分布を明らかにし,本現象の要因が,光熱変換に伴う熱発生と熱膨張が主たる要因であることを明らかにした。また,光照射時の光学定数変化の絶対量を明らかにし,その大きさから,本現象が光制御の光学素子として応用可能であることを示すことができた。 このように,当初予定していた研究課題について取り組み,結果も得られていることから,研究は全般的に順調に進展していると言える。 ただし,研究課程で新たに発見された,光照射時の屈折率変化分布が異なる試料の存在について,その原因を明らかにし,なおかつ,相転移現象と本現象の関係を明らかにすることで,さらに精緻でかつ深く研究を進めることができることを見出したため,本来の研究内容に加えて,本現象の温度特性に関する一連の研究を継続して進める。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた知見から,本現象の原因解明および特性解明には,温度特性についての調査が必要であることがわかった。そのため,当初の予定に加えて,今後の方針として,光誘起の変形現象や光学特性変化について,その温度特性に関する研究を中心に継続推進する。 また,本現象に潜んでいる物理の解明のためには,過渡応答特性もさらなる検討が必要であり,パルスレーザーを用いた時間応答特性の研究を推進し光誘起の弾性波発生源としての研究もさらに進めていく。
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Causes of Carryover |
研究実施過程において,当初の実験に加えて温度特性実験(低温実験)を追加実施することで,当初目的より,より精緻で高いレベルの研究成果を残せることが判明した。しかし,低温実験用の真空ポンプの故障により,上記の研究を十分に実施出来なかった。また,それに伴い,研究成果発表(学会発表,論文投稿)も実施出来なかったため,繰越金が発生した。 追加で実施を設定した低温実験を実行するため,故障した真空ポンプの修理もしくは新規購入を行う。また,低温実験用の光学部品や冷媒等の消耗品購入を行う。そして,成果発表用の旅費,論文投稿費に助成金を充てる。
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