2015 Fiscal Year Research-status Report
シリコンナノ粒子インクによるプリンタブル多孔質シリコン膜
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15K05994
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
佐藤 井一 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (90326299)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シリコンナノコロイド / ポーラスシリコン / プリンテッドエレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
インク粒子としての利用に適したチオール分子修飾シリコン(Si)ナノ粒子の作製条件を見出し、そのナノ粒子インクから作製された多孔質Si膜の形態と電気的性質を調べた。得られた実験結果は学会で発表した。 水性Siインクとしては、メルカプトコハク酸(MSA)修飾Siナノ粒子をインク粒子とすることで高濃度Siインク(2 wt%以上)が再現性良く得られた。このインクはガラス基板などの親水性基板上で多孔質膜を形成するのに適していた。Si粒子表面に存在するMSAを1-ブタノールでエステル化すると、油性Siインクのインク粒子として使用できた。この油性インクを用いると、水素終端したSiウェハー表面や疎水的な金属表面上に一様な多孔質Si膜を形成することができた。また、これらの膜形成に関する実験により、基板やSiナノ粒子表面の親水性/疎水性の性質が一様膜の形成に重要であると同時に、粒子と基板とのファンデルワールス力も膜形態にとって重要なパラメータとなると考えられた。その理由は、2つのSiナノ粒子表面間のファンデルワールス引力よりもSiナノ粒子表面と基板表面との引力の方が強いとリフシツ理論により計算された場合、一様膜が形成されることが実験的に確かめられたためである。 本研究で作製された多孔質Si膜は、バルクSiには無い光照射依存性と雰囲気ガス依存性を併せ持つ電気的性質を示した。特に、光子束一定で光子エネルギーを変化させた場合における光伝導性において、光子エネルギーが約2 eV以上になると、とたんに抵抗値が下がることが確認された。今後の研究でそのメカニズムを明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Siナノ粒子インクで多孔質Siを成膜するための条件がほぼ固まってきた。MSA修飾Siナノ粒子のSiコアサイズは、ボールミル粉砕後の遠心分離過程における遠心条件を変化させることで、平均直径10 ~ 44 nmの範囲で再現性良く変化可能である。今後、10 nm以下の粒子も安定的に作製できるように目指す。MSA以外の表面修飾子として、MSAを1-ブタノールでエステル化したコハク酸ジブチル(DS)を用いてSiインク粒子を作製した。この単分子層の厚さは0.6 ~0.7 nmと見積もられた。よって、当初の計画で予定していたグルタチオンなどよりも薄いチオール単分子層が作製されており、緻密な多孔質Si膜を作るためのインクとして好ましい。またDS終端Siナノ粒子は疎水性溶媒に分散することから、疎水性基板上で一様な多孔質Si膜を形成しやすいインク粒子である。 得られた多孔質Si膜のデバイス化(ガスセンサーや発光素子、太陽電池)へ向けた研究に関して、当初の計画では、初めに電気的性質の雰囲気ガス応答性を調べる予定であった。しかしその後、膜に光照射すると「研究実績の概要」欄の最終段落に記したような興味深い結果を得たため、初めに光導電性の評価に注力した。これまでに、波長365 ~ 940 nmの光照射による電流の変化についてデータ収集ができている。
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Strategy for Future Research Activity |
Siインク作製および多孔質膜形成の条件のさらなる最適化と、デバイス化(太陽電池、ガスセンサー、発光素子)へ向けての試料作製・評価を行う。なかでも以下の3点に力を入れ、得られた成果を学会と論文で発表していきたい。 [1. 一様な多孔質Si膜形成法の確立]インク粒子表面と基板表面との相互作用をリフシツ理論で考察すると、一様な多孔質Si膜が形成されるか否かが、ほぼ予測できることがわかってきた。さらなる追加実験を行い、この成果をまとめて発表する。用いるインク粒子は、水性インク用にMSA修飾Siナノ粒子、油性インク用にDS修飾Siナノ粒子とする。 [2. キャリアの注入障壁の評価]実験室内で、三角波の入力電圧を用いた変位電流測定装置が立ち上がったので、これを用いて、様々な条件で作製した多孔質Si膜において、膜/電極界面におけるキャリアの注入障壁の大きさを正確に求める。 [3. 多孔質Si膜の光応答の評価]得られた多孔質Si膜に約2 eV以上の光照射を行うと、それ以下の光子エネルギーの光照射に比べて導電性が大きく増えることが明らかになった。今後、光導電性および光起電力特性を調べ、電流増加のメカニズムを考察する。 今後は、研究室内の博士前期課程の学生2名に研究協力者として参加してもらい、上記研究を効率的に進める予定である(多孔質膜の形態観察に1名、デバイス特性の評価に1名とする)。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、インピーダンスメーターの修理費として60万円を計上していたが、実際に修理に着手したところ想像以上に損傷が激しく、完全に修理するにはこの額を大幅に超える修理費が必要となることが判明した。そのため、やむなく修理を簡易的なものにとどめ、その結果、修理費用が予定よりも少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に国際会議での招待講演を2件依頼されているため、その講演で本研究成果を発表しようと考えている。次年度使用額はその旅費として使用する。
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