2015 Fiscal Year Research-status Report
伝搬遅延を含む等価回路に基づくメタマテリアルの設計手法の構築
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15K06063
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久門 尚史 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80301240)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 遅延相互作用 / メタマテリアル / 放射の反作用 / 遅延結合 / 近傍界 / 遠方界 / 放射抵抗 / 結合共振器 |
Outline of Annual Research Achievements |
Maxwell方程式から系統的に回路モデルを導くことができる構造として、導体球と導体線からなる構造に対して、電磁波の伝搬遅延を考慮したモデル化の手法を開発した。これにより、従来インダクタンス行列や電位係数行列として定式化されていたものが、遅延作用を含む形になることを示した。また、この表現は周波数領域では、従来実数であったインダクタンス行列や電位係数行列が虚数成分をもち、一般に複素数となることを意味する。一方で、インピーダンスという視点では従来純虚数で表現されていた行列が実数成分をもつことに対応する。 この表現法の妥当性を評価するために、導体線1本が2個の導体球で終端された構造について、損失成分の計算を行った。その結果、提案回路モデルにおいて導出された損失分が従来遠方界のポインティングベクトルから算出されたヘルツダイポールの放射抵抗と一致することを示した。これは、従来遠方界を用いて評価されていた放射の影響が近傍界による評価のみで表現できることを示している。 次にこの構造を平行に並べると、遅延結合をもつ結合共振器として表現される。この遅延結合は結合係数の方向性に影響を与えるため、偶モードと奇モードの共振周波数の大小関係が共振器間の距離により変化することを明らかにした。また、それに伴って両モードの放射量の大小関係も入れ替わることを示し、電磁界解析との比較からその妥当性を確認した。 さらに、これらの理論を実験で確認するため、プリント基板上に構成できるメタ原子構造の検討を行い、導体円盤と導体線の構造について、Maxwell方程式から等価回路を導出する方法を開発した。また、実際に基盤加工機によりその構造を作成し、ストリップ線路の間に挿入することにより評価を行った。メタ原子間の距離を変化させながら各モードの共振周波数を測定した結果、距離に依存して共振周波数の大小関係が入れ替わることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遅延の影響を評価する方法として、導体球と導体線の構造については、Maxwell方程式から系統だって導出された理論値が、従来の放射抵抗と一致することが明らかになり、遅延の影響を定量的に根拠付けできたという意味で重要な成果が得られた。このことは放射の反作用である電流の減衰が定式化できたという意味も持っている3。 また、従来遠方界のポインティングベクトルで評価されていた放射量が近傍の電磁界遅延により評価できることが明らかになったので、近傍界による遠方解の評価という意味で、今後の応用が期待できる。さらに、遅延を含む結合が共振モードの周波数に影響を与えることが明らかになったため、今後伝搬遅延をモード設計に利用できることが確認できた。 また、遅延相互作用の影響を実際の実験で評価する方法として、プリント基板上にメタ原子を実装する方法を確立するとともに、その等価回路の導出法も開発できた。これにより理論の妥当性を電磁界シミュレーションだけでなく実験により確認できるようになったことは、今後の研究を進める上で重要な進捗であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で導体球と導体線からなる構造で遅延の放射や結合への影響の理論的評価が可能になり、平板構造により実験による検証が可能になった。今後はこれらのモデルに基づき、理論、シミュレーション、実験を用いて遅延の影響の物理的意味や設計への応用について検討を行う。 また、近傍界における伝搬遅延と放射の反作用の関係を明らかにするために、帰路線をもたない分布定数線路である単導体線路の定式を確立し、放射の反作用の意味づけを明確化する。 さらに、提案手法で得られた遅延の自由度がどのような特性に影響を与えるかを明確化するために、周期構造において得られる分散特性などにおいて遅延の影響について検討を行う。 また、これらの伝搬遅延はプラズモンの制御においても重要な要素になるため、導体構造のトポロジーとプラズモンの特性の関係性について検討を行う。 さらに、今回得られた平板構造による実験においても、種々の特性の評価を行い、提案手法の有効性の確認を行う。
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Causes of Carryover |
実験のためのストリップ線路を試作予定であったが、簡易なものを借りることができたため、そのストリップ線路で簡単な評価を行うことができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現時点の検討に基づき、より厳密な評価ができるストリップ線路を試作することを検討している。
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