2015 Fiscal Year Research-status Report
直交変調型包絡線パルス幅変調方式送信機における電力効率および変調精度の改善
Project/Area Number |
15K06086
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
楳田 洋太郎 東京理科大学, 理工学部, 教授 (80439918)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 直交変調 / 包絡線パルス幅変調 / EPWM / 送信機 / スイッチング / D級 / 電力増幅器 / 量子化雑音 |
Outline of Annual Research Achievements |
直交変調型包絡線パルス幅変調(QM-EPWM)方式送信機は高い電力効率と線形性を持つ。しかし、量子化雑音による電力効率および変調精度低下の問題、およびスイッチング(SW)動作型電力増幅器(PA)として通常D 級PA を用いるため、主としてスイッチング損失により電力効率が低下する問題がある。この問題を解決するために以下の検討を行った。 1.ディジタル的に量子化雑音成分のキャンセリングを行う構成:抽出した量子化雑音成分をパルス振幅変調する際に生じる雑音のため、量子化雑音が低減されないことがわかった。このため、抽出した量子化雑音成分をそのまま用いる、アナログ的なキャンセリングを行う構成を新たに提案し、シミュレーションにより量子化雑音の低減が可能であることを示した。 2.DE級PAを信号伝送に用いる構成:D級PA同様、スイッチング損失を最小とするためには、ゼロ電流スイッチング(ZCS)条件とゼロ電圧スイッチング(ZVS)条件をともに満たせばよいことがわかった。今後、これらの条件を両立し電力効率の向上を図るとともに、信号伝送に適用し特性評価を行う。 3.量子化雑音およびスイッチング損失の低減による送信機電力効率と変調精度改善のための追加検討:(1) 送信機各部サンプリング周波数の最適化、および(2) PA挿入トランスバーサルフィルタ(TF)構成とした時の窓関数の適用検討を行った。前者により、量子化雑音の低減による効率向上と変調精度改善が示された。また、後者により、送信機出力の量子化雑音を大幅に低減出来ることが示された。 4.動作原理確認実験: 搬送波周波数500MHzにて、GaAs系MESFETを用いてD級PAの設計、試作を行い、任意波形発生器より出力する16QAM信号を用いてD級PAのドレイン効率および変調精度を評価した。今後、変調精度を改善し、提案回路の評価を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.当初計画の量子化雑音低減構成が十分な性能を発揮できないため追加実施した他の量子化雑音低減法の提案と検討 ディジタル的に量子化雑音成分のキャンセリングを行う構成は、抽出した量子化雑音をパルス振幅変調する際に生じる量子化雑音が大きいため、量子化雑音が低減されないことが判明した。このため、アナログ的な量子化雑音キャンセリング方式を提案し、送信機出力における量子化雑音を低減できることを示した。しかし、この構成では雑音を含む信号用と抽出雑音用に別のPAを用いるため、電力効率が改善されない欠点があるため、研究実績の概要に示した、(1)と(2)の検討を追加で行った。このうち、(1)は理論およびシミュレーション検討まで行い、その量子化雑音低減による電力効率向上とEVM改善の効果を示した(国際会議1件)。(2)は理論およびシミュレーション検討まで行い、送信機出力における量子化雑音低減の効果を示した(国内学会発表2件)。 2.QM-EPWM送信機におけるD級/DE級PAのZCS条件破れの調査によるPA設計の遅れ D級およびDE級PAを高効率動作させるためにはZCS条件が必要であるが、現状のQM-EPWM送信機ではD級/DE級PAを高効率動作に必要なZCS条件が満たされないことが判明し、その調査を優先的に行ったため、PA設計が遅れた。 3.H27年度実験評価系搬送波周波数のVHF帯からマイクロ波帯への変更による技術的難易度上昇 搬送波周波数50MHzにて実験系の構築を行う計画であったが、マイクロ波帯と送信機の特性は異なるため、始めから最終目標であるマイクロ波帯における提案回路動作の実証を行う方針に変更した。しかし、市販のPA用ドライバ回路の歪みが大きいため、電力効率は良好な値が得られたものの、変調精度の値は不十分な値となった。このため、提案回路の実験的評価を開始できていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.PA挿入TFを用いた量子化雑音電力の損失低減による電力効率の向上検討 (1) 量子化雑音を回収するPA挿入TFの提案:PA挿入TFにより、信号成分以外の量子化雑音等の不要波成分を取り除き、さらに取り除いた不要波成分の電力を回収する構成により送信機電力効率の向上を図る。(2) 量子化雑音による電力消費の小さいPA挿入TFの提案:TFに用いる信号合成器に電力損失の小さいもの、あるいはPA出力間干渉による損失の小さいものを用いることにより、量子化雑音による電力消費を抑え電力効率を向上させる。 2.D級/DE級PAにおけるゼロ電流スイッチング(ZCS)条件の適用による電力効率の向上 D級/DE級PAでスイッチング損失を最小とするためには、トランジスタのオン-オフ間のスイッチング時に電流がゼロとなるZCS条件を満たす必要がある。しかし、H27年度中にQM-EPWM方式送信機ではこの条件が満たされず、スイッチング損失が大きいことがわかった。今後、D級/DE級PAがこの条件を満たすようなQM-EPWM送信機構成を提案し、電力効率の向上を図る。 3.提案方式の有効性の実験的検証 H27年度は、PA用ドライバ回路の歪みが大きいため、電力効率は良好な値が得られたものの、変調精度の値は不十分な値となった。H28年度は、ドライバ回路を改良し、送信機評価系の変調精度を十分良好な値として提案回路の実証実験を行う予定である。実験では、提案した送信機の高周波回路部分について、ディスクリート素子を用いた回路により評価を行うとともに、CMOSプロセスによる集積回路試作を行い、提案回路の実証を行う。
|
Causes of Carryover |
搬送波周波数50MHzにて実験系の構築を行う計画であったが、目的とするマイクロ波帯と送信機の特性は異なるため、はじめから500MHzのマイクロ波帯で提案回路動作の実証を行う方針に変更した。このためには、500MHz帯のD級またはDE級PAの開発が必要となり、マイクロ波帯での信号発生が必要となる。しかし、FPGAの標準のプログラミング可能な論理ゲートでは、D級/DE級PAに入力する信号を発生するディジタル部のうちマイクロ波帯で動作する部分を構成することが出来ないため、この部分を集積回路で作成する必要があるが、集積回路の試作はH28年度以降に実施予定であるため、メモリに波形データを入れることにより簡易的にマイクロ波帯信号を発生できる任意波形発生器を用いてまずD級PAの開発を行った。このため、H27年度にはFPGAを購入する必要性が生じなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度はFPGAの代わりに任意波形発生器を用いて、提案構成の評価を行うために用いるD級PAの開発を行った。しかし、任意波形発生器は継続的に信号を出し続けることができず、精度の高い評価を行うことが出来ない欠点がある。また、任意波形発生器はソフト的に作成した波形を発生するものなので、あくまでQM-EPWM送信機ディジタル部の代用であり、QM-EPWM送信機全体を実装したことにならない。このため、マイクロ波周波数帯においてディジタル部の実装を行うことを目的とし、H28年度はFPGAを購入する予定である。
|