Outline of Annual Research Achievements |
システム同定手法の1種である部分空間同定法の開き(gap)に基づく分散解析手法の確立を目指して, PO-MOESP法, N4SID法, robust N4SID法の比較, 閉ループ環境における分散解析, カルマンゲインとイノベーション過程の共分散行列の一致推定値の開発, 周波数領域における分散解析など中心に研究し, その成果を発表してきた. 研究開始当初予定になかったカルマンゲインとイノベーション過程の共分散行列の一致推定値に関して発表したところ, 強い興味を持つ研究者がいたため, 年度後半はこれを中心に研究を進めた. これらの一致推定値は, 推定誤差分散を求める上でも非常に重要なため, 提案する分散解析手法の有用性を主張する上でも重要である. 従来, 同程度の推定誤差分散をもつと思われていたPO-MOESP法, N4SID法, robust N4SID法の違いを明らかにしたことにより, これらの手法を利用する上で重要な知見を得たと考えている. 具体的には, PO-MOESP法は一致推定値を与えるのに対して, N4SID法, robust N4SID法は漸近的一致推定値しか与えない. 状況によっては, PO-MOESP法がよりよい推定値を与える可能性が明らかになってきた. 閉ループ環境における分散解析と周波数領域における分散解析に関しては, 予備的な結果を得ることができた. 今後のさらなる研究が必要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の実施計画では, H27年度は, (1)gapに基づく部分空間同定法の分散解析, (2)最適な重み行列の解析, (3)閉ループ同定への拡張, を予定していた. このうち, (1)に関しては, 理論の精密化と, B, D行列の推定誤差の具体的な表現の導出を行いった. これにより, H28年度以降実施予定の周波数領域での推定誤差分散解析が容易になったと考えている. (3)に関しては, OE-PIV法の誤差解析を行い, 一致性を示した. しかしながら, 理論的にはまだ精密化する余地があり, また, 閉ループ同定全般への理論的フィードバックにはまだなっていない. (2)に関しては, 残念ながら新しい結果は得られていない. 申請書には記載していなかったものとして, (4)カルマンゲインとイノベーション過程の共分散行列の一致推定値の定式化と数値解法の提案と解析, (5)周波数領域での推定誤差分散解析を行った. 誤差分散を求めるためには, イノベーション過程の共分散行列の推定が必須である. 既存の推定手法では, 漸近的一致性はなりたつものの, 一致性は成り立たない. これは, データ行列を縦横両方向へ大きくしていかなければ, 推定値が真値へ確率収束しないことを意味し, 数値計算の精度と手間の両方の意味で問題である. これに対して, (4)の提案手法の目指しているものは, データ行列を横方向にのみ大きくしていけば推定値が真値に確率収束することを意味し, その理論的な整備や数値解法の確立が望まれる. (5)はH28年度以降に実施する予定のものであったが, (4)の結果を踏まえ, 予備的な結果を得た. 一部実施内容が当初の予定とは異なるものの, 研究の目的である, gapに基づく部分空間同定法の分散解析手法の確立に関しては, 概ね計画通りに進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
・昨年度開始した, カルマンゲインとイノベーション過程の共分散行列の一致推定値に関しては, 計算アルゴリズムの開発が必要なため, 引き続き, 研究を進める必要がある. 過年度は一致推定値を求める問題を定式化し, 現在はそれを解く数値解法を2つほど提案しているところである. この解が一致推定値となることを厳密に証明する必要がある. また, 提案している解法の収束性や計算量に関する考察などが必要である. 本年度の前半は, この問題を中心に研究を進める. ・周波数領域における分散解析は, 過年度得た予備的な知見をもとに, 計算アルゴリズムの開発・整備, 数値例の蓄積などが必要である. 予備的な結果では, 推定パラメータの実際の分散と計算上の分散との間に隔たりがある場合があり, この原因についても研究する必要がある. ・閉ループ環境における分散解析については, 当初の予定よりは遅れているが, 引き続き 実施していく. また, 同定手法の比較として, PO-MOESP, N4SID, robust N4SID以外の手法も取り上げていく予定である.
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