2015 Fiscal Year Research-status Report
街区設計における建築形状と材料の調和による屋外温熱気流環境・エネルギー消費の改善
Project/Area Number |
15K06279
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
一ノ瀬 俊明 国立研究開発法人国立環境研究所, 社会環境システム研究センター, 主任研究員 (30231145)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ウー ラダー 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノ材料科学環境拠点, 研究員 (90544560)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 風洞 / ストリートキャニオン / 熱環境 / 流れ場 / PIV / ナノ材料 / スケールモデル / デザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近年開発の著しいナノテクノロジーを応用した新しい建築材料を用い、その屋外熱環境改善効果について、風洞実験(つくば市・気象庁気象研究所風洞)等による検証を行う。また、この成果を実際の街区に敷衍するため、スケールモデルによる風洞実験を通じ、都市表面が加熱される条件下において、都市街区のアスペクト比や建物方位が流れ場に与える影響について、弱風条件下で生じる浮力に注目し、体系的な調査を行う。 さらに、室内での模型実験のほか、屋外観測や数値シミュレーションによる検証を行い、それにもとづく都市街区デザインについての将来的指針づくりを目標とする。具体的には、風向・風速、日照などの異なる気象条件、異なる材料、窓のデザイン、アスペクト比など街区の形状、材料の配置が、建物周辺の気流系や屋内外の温熱環境へ与える影響を扱う。従前一般の風洞実験においては、建築模型表面を電熱線などで加熱し、建築模型における放射収支を陽に表現しない手法が用いられていた。本研究では流れ場への粗度の影響を最小限にする工夫をしながら、人工太陽光ランプを至近に設置し、夏季晴天日の屋外に近い放射条件を風洞内に再現するという、風洞実験の新しい手法を試みる。 初年度の実績は以下のようにまとめられる。LDVの手法を用い、風洞実験において実際の建築表面素材や人工太陽光ランプを用いることの可能性に加え、建物表面特殊コーティングによる、流れ場等屋内外温熱環境の改善効果を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従前、都市地表面における放射収支、熱容量、熱収支については、風洞実験における再現性や制御の困難さゆえに、これらの要素は陽に扱われてこなかった。ほとんどの先行研究においては、都市キャニオン内壁面加熱で発生する浮力による流れ場を創出するためには、スケールモデルの表面を電熱線等で直接加熱する方法を採用していた。しかしそれでは、表面を安定的に加熱するのみであるため、日影の効果などをうまく再現できなかった。風洞内で放射を正しく再現することは、太陽高度・方位角、日影の影響のよりよい再現や、都市ヒートアイランド現象の正しい理解に貢献しうる。本研究では流れ場への粗度の影響を最小限にする工夫をしながら、人工太陽光としてのハロゲンランプ(光源から約60 cm離れた屋上面中央で800 W/m2前後)を至近に設置し、夏季晴天日の屋外に近い放射条件を風洞内に再現するという、風洞実験の新しい手法を試みた。 風と温度の計測には、LDV(Laser Doppler Velocimetry)の手法を用い、スケールモデル(約1/100)のベースとなる屋根面素材にはアスファルトシングルを用いている。現在までの進捗は以下のようにまとめられる。風速が小さい条件の下では、流れ場は建物形状や浮力の影響を受けやすい。屋上面を加熱すると、風速の増大と乱流強度の減少が見られた。これは大気汚染物質の混合を抑制し、かつ輸送を強化する。また、屋上面に特殊コーティングを施した場合、風速の減少と乱流強度の増大が見られた。しかしながら、放射が気温センサーに与える影響などの課題も明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
スケールモデルによる風洞実験を通じ、都市表面が加熱される条件下において、都市街区のアスペクト比や建物方位(卓越風向に対する建物形状)が流れ場に与える影響について、とりわけ弱風条件下で生じる浮力に注目し、体系的な調査を行う。初年度の成果を実際の街区に敷衍するため、ここではPIV(Particle image velocimetry)の手法を用い、都市キャニオンにおける卓越風向や加熱条件の違いがもたらす流れ場や温熱環境への影響について実験を行う。この実験を通じ、屋上緑化や特殊表面素材の適用と街区デザインとの賢い組み合わせの有効性提示が可能となるものと考えられる。 ストリートキャニオンを模したアルミニウム製のスケールモデル(10 cm x 10 cm x 100 cm)を用い、風上に粗度ブロックをならべて流入風速の鉛直分布を調整する。PIVカメラの使用により、斜め方向から建物に接近する風が流れ場に与える影響を、鉛直分布と水平分布の両方について、より詳細に観測できるものと考えられる。また、横に長いキャノピー(ストリートキャニオン)の中央部を対象に、気温場と流れ場の計測を行う。このスケールモデルの表層および躯体内部に温度センサーや熱流計を設置し、熱の挙動を計測するほか、サーモカメラやスケールモデル周辺に分布させた気温センサー(放射シールド付)により、屋外空間への効果を測定する。 これらの研究成果は、アスペクト比や風向、風速の流れ場に与える影響を体系的に描き出すことが期待されるほか、都市地表面の加熱による都市キャニオン内の大気汚染現象、屋内外温熱環境悪化を避けるための都市計画指針作りに寄与するものであると考えられる。
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Causes of Carryover |
2年目に予定されている風洞実験の予備実験を先行的に始めることができたものの、その結果想定外の追加実験(成層状態の再現性に関するもの)が必要と判明し、その費用を確保しなくてはならなくなった。 また、断熱材の評価実験に使用していた熱電対装置に故障が生じたため、装置の修理・調整が必要となり、実測による実験などの検証を延期する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記追加実験を当初予定された実験に組み込み、その費用(実験補助の人件費や材料代を含む)として使用する。
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