2016 Fiscal Year Research-status Report
加速度応答の非線形性検出による構造損傷推定法に関する研究
Project/Area Number |
15K06286
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊山 潤 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30282495)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 高次微分 / 多層骨組 / 損傷推定 / 構造ヘルスモニタリング / 常時微動 / 半導体ひずみゲージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、地震時に計測された応答加速度の高次微分により構造物に非線形性が生じたことを 検出し、構造損傷を推定する理論と方法の確立を目指すものである。本手法の特徴は、検出値が物理的現象と理論的に対応しており、ノイズ低減のためのパラメタやしきい値などが一義的に定められる点であり、前年度までにおいては、1層建物および多層建物への適用性検証を通じ、この特徴を確認してきた。 本年度は適用性の確認とその拡大を図るため、昨年度開始した、建築研究所等と合同で行った振動台実験を継続し、加速度記録の取得を試みると共に、その分析を進めた。この実験は、柱梁を取り出した部分骨組を振動台実験で加振するものである。加速度時刻歴の積分を行う通常の方法でも変形量は算出可能であるが、構造物が非線形性を有する場合にはその精度が低下し、塑性変形量や残留変形量を算出するのが難しい。そこで本研究においては、加速度応答の高次微分により塑性化開始時刻を検出し、それ以降に進展した変形を塑性変形量として総和することにより、塑性変形量および残留変形量を算出する方法を示した。精度としてはかならずしも十分ではないが、通常の方法では算出できない塑性変形量を算出できたことは有益である。 上記の方法は、大地震時における加速度を記録して損傷を推定する方法であるが、振動台実験をすすめる中で、常時微動レベルの小さな振動を用いた損傷検知手法についても必要性を感じたため、合わせて検討することととした。通常用いられる弾性ひずみゲージ、塑性ひずみゲージを加え、特に高精度でひずみが計測できるピエゾ素子センサや半導体ひずみゲージを導入し、常時微動レベルの極めて微細なひずみを検出することによる損傷検知手法についても適用性の検討を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度からの振動台実験による加速度データ収集を継続して行った。振動台実験は部分骨組であるため、損傷検出理論の多層骨組への適用性の検証が困難であることが問題ではあるが、実際の構造物が損傷する過程を記録出来た点では有益なデータが得られた。しかし、試験体数が少なく、加速度応答による非線形性検出理論という範囲においては十分な分析がしにくいこと、また加速度記録からのみでは部材の損傷箇所の同定に困難さが残るといった問題点も浮かんできた。このため、今年度はこれまでの加速度記録の収集・分析に加え、常時微動下における微小ひずみ記録の収集・分析にも力を注いだ。このため、加速度記録のみの分析という当初の方向性からは若干離れたが、総合的な損傷検知理論の検証・確立という意味では研究は進展したものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
建築研究所等と共同で行っている振動台実験を継続して行い、本年度は多層または多スパン骨組の実験を目指す。この実験では塑性化部位が複数になり、非線形性の検出としてはより困難なものになると考えられるが、このような場合への適用性の検証と課題の抽出を行う。 また試験体不足を補うため、大型振動台実験設備(e-defense)で行われた多層鉄骨造骨組の複数の実験記録を用いた分析をすすめる。 本研究が目指す「加速度応答の非線形性検出」を用いた方法は、大地震時の建物応答を記録し、その分析を目指したものであるが、この方法には、大地震時に必ずしもデータが記録された場合にしか利用できないこと、また加速度応答のみでは詳細な損傷推定に限界があることといった問題点もある。このため、次年度の振動台実験においてはさらに、加速度計測に加えひずみ計測を充実させ、常時微動レベルの記録からも損傷推定可能な損傷推定法にまで検討の幅を広げることで、成果の拡大を図る。
|