2016 Fiscal Year Research-status Report
震災鉄骨ブレース構造物の修復性に関わる補修工法と性能回復性評価法の開発
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15K06308
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
伊藤 拓海 東京理科大学, 工学部建築学科, 准教授 (50376498)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 鋼構造 / ブレース構造 / H形鋼 / 修復性 / 補修工法 / 載荷実験 / 3次元計測 / 3次元モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、震災鉄骨ブレース構造について、震災後の再使用・継続使用などを目的として、損傷部材・骨組の具体的な補修工法を提案し、その有効性や修復性を検討することを目的としている。 本年度は、中高層規模の鉄骨建物のブレース構造に使用されているH形鋼ブレースを対象として、損傷モードに対する具体的な補修工法を提案し、その有効性と適用性を実験的・解析的に検討した。過去の地震被害例を参考とし、ブレース材と接合部の損傷状況を調査し、構造実験によって再現した。さらに、試験体の損傷状況に対して補修工法を検討し、補修後に再度載荷実験を行った。本年度は、ブレース接合部の形状寸法、ボルトレイアウトを変数とし、元の状態と補修後の実験結果の比較より、復元力特性や終局限界状態を検討した。 実験結果より、1) ブレース材が曲げ座屈するケースと、2) 接合部が塑性変形して崩壊メカニズムを形成するケース、が観察された。1)では、その復元力特性と終局挙動について、既往の評価法により予測が可能である。一方、2)では、終局限界状態においてブレース接合部は複雑な変形性状を示し、特にガセットプレートの塑性変形状態は、塑性力学による崩壊モードや耐震終局挙動、復元力特性を求めることが困難であることが確認された。そこで、損傷した試験体を3次元計測し、画像解析によって3次元モデルを作成して、塑性解析モデルを作成した。これにより、実験結果の弾塑性挙動を精度良く追跡できることを確認した。すなわち、建築構造学としての限界を、形状計測・3次元解析の新技術との融合により、新しい研究手法を呈示した。 以上の研究成果は、日本建築学会、国際会議の建築構造分野や建築生産分野への論文発表を予定し、投稿準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、震災ブレース構造の被災・損傷状況に基づき、具体的な補修工法を提案し、その有効性と修復性を検討することを目的としている。特に本研究は、1) ブレース材・接合部の補修工法と修復性、2) ブレース構造としての骨組全体の修復性と耐震性能、以上を実験的・解析的に明らかにすることと、その評価法の確立を対象としている。 27度, 28度は、1)のブレース材・接合部を対象とし、低層鉄骨ブレース構造で広く使用されている山形鋼のブレース材と接合部、また中高層鉄骨ブレース構造で使用されているH形鋼のブレース材と接合部をそれぞれ対象として、構造実験、解析・数値シミュレーションによる研究を行った。いわゆる部材としての補修工法と修復性、ならびに復元力特性の評価法について一定の成果を得ることができた。さらに、ブレース材の復元力特性に与える影響として、損傷時の塑性変形や補修後の偏心距離が重要な変数であることを確認し、解析手法を提案した。 29度は、本研究課題の集大成として、2)の鉄骨ブレース構造の骨組全体を対象とし、これまでの1)の部材レベルでの研究成果を反映させ、骨組全体の修復性と耐震性の評価法に関する研究を実施する。すなわち、要素(ブレース材・接合部)の補修工法と修復性、耐震性や復元力特性の知見から、システム(骨組)の修復性に関する検討に着手・移行できるめどが立ち、研究期間全体の計画の中で、予定通り進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度として、鉄骨ブレース構造の骨組全体としての補修工法と修復性、耐震性や復元力特性に関する総合的な検討を行う。 すなわち、前年度までの研究では、鉄骨ブレース構造の部材レベルでの検討を行ってきたが、損傷したブレース材を補修することで、柱梁耐震骨組に与える影響を検討する。これは、損傷したブレース材の補修により、ブレース材や接合部の剛性、耐力、固定度が上昇することが予想され、周辺骨組への影響を明らかにする。また、ブレース材や接合部の損傷による残留変形、塑性変形の影響で、骨組やブレース材に付加荷重や2次モーメントの発生が予想される。結果として、骨組の力学特性や耐震性能の変化と、付加荷重による外力の影響により、前年度までの部材レベルでの知見・結果と比較することで、鉄骨ブレース構造の骨組全体の修復性について検討を行う。 具体的には、鉄骨ブレース構造の骨組を対象とし、実験室のスペース・設備を考慮して、部分骨組試験模型を製作し、水平載荷実験を実施する。このとき、現有の実験装置・設備・計測装置で実験的研究に概ね対応できるが、載荷冶具、計測装置を適宜追加導入する。これにより、ブレース材と接合部の部材レベルの復元力特性と弾塑性挙動を計測・解析することができる。また、鉄骨ブレース構造の部分骨組のグローバルな終局耐震挙動や復元力特性を計測・解析できる。 さらに、実験では計測が困難な項目に関しては、有限要素法解析プログラムによる補間や、前年度までのブレース材・接合部の部材レベルの解析手法・評価法を用いて、様々な解析的検討を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた構造実験計画に従って、1) 鉄骨ブレース試験体の製作と構造実験の実施、さらに2) 損傷試験体の補修、を実施した。 1)のブレース試験体の設計・製作では、27年度と異なる仕様であったため、当初の見込み額と差が生じた。また、2)の損傷試験体の補修では、構造実験で生じた試験体の損傷状況に応じて、鉄骨業者と打合せの上で、具体的な補修工法・工事、また鉄骨補修材料を決定する必要があったため、年度始めの段階でその金額を正確に予想することが困難であった。 以上が、次年度使用額が生じた原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も、本年度と同じように、1) 鉄骨ブレース構造の試験体模型に対する耐震載荷実験と、2) 損傷試験体の補修工法の開発、を実施する予定である。このうち、2)の費用を正確に予想することは困難であるが、27年度、28年度のデータがあるため、次年度は予想金額の精度を高めることで、使用計画と実際の使用額の差を小さくできるように努める。 また、次年度は大掛かりな耐震構造実験を予定しており、試験体の製作、実験用の載荷冶具、計測装置などの導入・整備で、次年度予算の大半を使用する予定である。これらの予定額はこれまでの研究実績に基づき、予想することができると考えている。そのため、この次年度使用額もこれらの予算として適正に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)