2016 Fiscal Year Research-status Report
コンサートホール音場における後期反射音の時間・空間分布密度と響きの質感
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15K06331
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
古屋 浩 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (00238700)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | コンサートホール / 音響心理評価 / 響きの質 / 要素感覚 / 反射音構造 / 室内音響設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンサートホール音場の後期反射音がもたらす聴覚的効果には、時間的性質を表す‘響きの長さ感’(Reverberance, REV)と空間的性質を表す‘音に包まれた感じ’(Listener envelopment, LEV)の存在が知られている。本研究の目的は、後期反射音による聴覚的効果を構成する新たな要素として“響きの質感”(Texture of reverberation, TRV)を定義し、これがホール音場で知覚される音像の質的側面を表す要素感覚として有効であることを明らかにすることである。平成28年度の実績概要は下記となる。 1.後期反射音の時間分布特性と‘響きの質感’の関係に関する成果:後期反射音の時系列上の一様性を表す時間分布特性(TDIL)の周波数特性がTRVの知覚に与える影響について検討した。すなわち、高音域時間分布指数TDIL,H3(2k-8kHz帯域)および残響時間を独立に変化させた9つの刺激音場を用い、TRVの心理的距離尺度を求めるための音響心理実験(無響室内において電気音響的に模擬音場を構成し被験者に聴感印象を評価させる実験)を実施した。この結果から、TDIL,H3の変化がTRVの知覚において弁別可能な影響を与えること(相関係数0.89)、また残響時間の変化は影響しないことを明らかにした。 2.後期反射音の空間分布特性と‘響きの質感’の関係に関する成果:後期反射音の到来方向分布がTRVの知覚に与える影響について検討した。すなわち、時間分布特性を一定(TDIL,H3=0.65)に保ちながら、方向別後期反射音エネルギのばらつき度合いを表す空間分布指数SDILを変化させた刺激音場を用い、TRVに関する心理実験を実施した。この結果から、高音域時間分布指数TDIL,H3が高い場合、後期反射音のSDILの変化は‘響きの質感’の知覚に弁別可能な影響を与えないことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の実施計画は、後期反射音エネルギを規定する物理量と‘響きの質感’TRVの関係について検討し、TRVが響きの心理評価要因として寄与することを検証することにあった。また、TRVを規定する物理指標として、‘樅の木状の減衰’音場を念頭に置き、後期反射音エネルギの時間特性および空間特性の2面から検討を試みる計画であった。 実験研究の進捗状況についてその主たる内容は、上記の「研究実績の概要」に記載しているとおりであり、後期反射音の高音域時間分布指数TDIL,H3および空間分布指数SDILといった2種類の音響物理量とTRV知覚の関係について明らかにされてきている。これらのことは、コンサートホール音場で知覚される音像の質的側面を表す要素感覚としてTRVが有効であることを検証するものである。以上のように、本研究はほぼ順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、基本的には「交付申請書」に記載した内容に即して進める予定であり現時点で大きな変更点は特にないが、付加事項として下記が挙げられる。 1.音響心理実験システム上の課題として、可変残響音の制御系統数を増強すること並びに反射音エネルギ時間分布密度の可変範囲を拡大するための方策を検討することが挙げられる。ハードウェア上の課題については、チャンネル数の増加およびイコライザ関連機器の設置を検討することにより対応してゆく。 2.物理指標の検討において、乱反射率を導入した音場解析並びに実音場インパルス応答によるTDIの分析などを行いながらTRVに対応する予測可能な音響物理量について検討する必要がある。したがって、これまでに得られた知見を整理しながら、また必要であれば弁別閾値に関する実験等も加えながら設計指標としての妥当性を検証してゆく予定である。
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Causes of Carryover |
物品購入における端数残額の累積による。有効に使用するため次年度使用とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験機器周りの消耗品費の一部に充当する予定である。
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