2017 Fiscal Year Research-status Report
地域施設ストックの価値を人口分布,利用率,近隣ストックから評価する手法の開発
Project/Area Number |
15K06370
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
吉川 徹 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (90211656)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 期待来訪者数 / 離散選択モデル / 地域施設 / 公共施設 / 仮想都市 / 最適施設配置 / 移動距離 / ロジットモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,仮想市街地におけるシミュレーションと理論的研究を通じてモデルを精緻化するとともに,実証研究の基礎となる評価指標の挙動を探求した.さらに実証研究に有用となる,最適施設配置および立地ポテンシャルに関する研究を推進した. 既存建築ストックの活用と地域公共施設の再配置は我が国建築界の喫緊の課題である.この課題の解決には立地条件を考慮した地域公共建築物の価値の簡便な評価手法が必要とされるのに対して,立地を詳細に組み込んだ評価手法の研究は少ない.これについて,研究代表者は,2013年度に,利用率が距離減衰しない施設での平均距離を指標とした手法を提案した.これを踏まえて本研究課題において昨年度には,利用率が距離減衰する施設での評価指標として期待利用者数と消費者余剰を仮想双子都市において比較した.その成果をもとにして,本年度には,2013年度に指標を提案する際に用いたものと同じ縦横各々3区域,総計9区画からなる仮想都市において,次の3指標によって,地域公共建築物の価値の評価を試行し,それらの指標の意義を検討した.すなわち,土木計画学においてしばしば用いられ,経済学を基礎とした指標である消費者余剰最大化と,一昨年度に新たな指標として浮上した期待来訪者数最大化,さらには従来から最適施設配置論において最も基本的な指標として用いられてきた住民から最寄り施設までの平均距離最小化である. さらに,実証研究の基礎となる平均距離最小化に基づく最適施設配置位置に関して,実際の都市に近い3次元都市空間において床の存在を想定した場合の最適都市形態を導出し,実際の都市空間として,本研究の対象地域に想定されている東京都多摩市と比較考察した.また同じく実証研究の基礎となる利用率の距離減衰を想定した場合の施設立地ポテンシャルについて,理論モデルと実証研究を統合した分析を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たに見いだされた理論的検討が必要な課題に関して,その検討に社会的的価値があり,研究開始時の想定よりも理論的に妥当性が高い評価指標を定義することが可能であることが示された.とりわけて,従来から用いられてきた,消費者余剰最大化と平均距離最小化に対して,期待来訪者数最大化が,どのような挙動をもたらすのかがより明確になった.さらに,その挙動を決定する条件の一端が示唆された.これは,昨年度までの想定が正しいことを示すと同時に,最終成果に向けた重要な進展であると言える.なお,この理論的な進展を踏まえ,本年度は理論的探究を中心にして,さらに実証研究に有用な最適施設配置および立地ポテンシャルに関する研究を推進し,仮想都市における検討の規模の拡大と実証研究を翌年度に行うこととした.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,仮想市街地におけるシミュレーションの自動化によって実施可能な検討の規模を拡大することを通じて,指標の挙動をより精緻に検討するとともに,実証研究を通じた成果の取りまとめを行う. まず,より精緻に3種類の指標がもたらす最適配置に基づく地域公共建築物の価値の違いに関する指標の挙動を決定する条件を同定するため,仮想市街地における検討できる都市規模の拡大を目指して,大規模シミュレーションの結果の整理を自動化する.この際の着目点としては次が挙げられる.既に,これまでの検討によって,3種類の指標がもたらす最適配置が異なるのはどういった場合であるのかについての概要は判明している.しかし,施設は離散的に配置されるため,結果が不安定になっている可能性がある.そこで大規模シミュレーションの結果の整理を自動化することで,シミュレーションにおける地域公共建築物の数を増加させることによって,結果の不安定さが解消されるかどうかを確認する.この検討にあたっては,これまでと同様に利用者が最近隣施設を利用する場合に限定して分析を進めることとする.さらに,本年度もネスティッドロジットモデルを用いずに,単純なロジットモデルに限定した検討を行う.また,都市内の理論的距離として,マンハッタン距離を用いることの実用性が既に確認できているので,これを引き続き採用する. 続いて,対象地域について,実証研究を行う.この実証研究にあたっては,東京都多摩市における集会施設(いわゆるコミュニティセンター)あるいは小中学校を対象と想定しているので,これまで整備した人口分布データや地域施設の位置のデータを活用しながら,既存地域公共建築物の価値を定量化するプロセスを検証する. 最後に,以上の成果を取りまとめて,発表を行う.これに合わせて,成果を研究代表者のウェブサイトに掲載する等して,社会的な普及を図る.
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Causes of Carryover |
当初,実証研究などを想定していたが,理論的に注目すべき着想である期待来訪者数最大化と他の指標との比較検討の必要がさらに増したため,本年度も理論的検討に重点を置き続け,実証研究に関してはそれに有用な最適施設配置と立地ポテンシャルの検討を行った.このため,実証研究関係の費用を最小限に留めるとともに,既存研究資源を最大限に活用したため,次年度使用額が生じた. これについては,本年度予定している仮想都市の規模拡大を前提としたシミュレーションに必要とされる機材導入,またデータ整備,実証研究と取りまとめ,発表に関する追加の費用としての謝金やウェブサイト作成費,論文発表経費,さらには,最適施設配置理論の研究のメッカである米国のオペレーションズリサーチ関連の国際研究集会での発表や,アジア諸国への発信を期した国際会議での発表等に使用する.
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Research Products
(3 results)