2016 Fiscal Year Research-status Report
構築と再利用の観点による西洋建築史学の再構築のための基礎研究
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15K06395
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 耕一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30349831)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 西洋建築史 / 再利用的建築観 / 再開発的建築観 / 文化財的建築観 / 社会変動 / 構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2017年4月に刊行された単著『時がつくる建築:リノベーションの西洋建築史』(東大出版会)の執筆が、主たる研究成果である。既存建物に対する人々の建築観を、「再利用的建築観(古代から19世紀まで)」「再開発的建築観(16世紀から現代まで)」「文化財的建築観(19世紀から現代まで)」として、3つに分類し、建築時間論の歴史として1冊にまとめた。 「再利用的建築観」の時代として、古代末期から19世紀初頭までのあいだ、社会変動に応じてさまざまに起こった建築再利用という現象がいかなるものだったか明らかにした。ローマ帝国西方の消滅という大きな社会変動のなかで、円形闘技場のような古代の巨大構造物が軍事要塞化されたり、ローマの神々を祀った神殿がキリスト教の教会堂に転用された事例などが明らかになった。なた中世の成長時代と縮小時代における大聖堂建設の変化、16世紀における価値観の変化とネガティブな再利用、さらにフランス革命という大きな社会変動に応じて起こった建物の機能転用について明らかにした。 「再開発的建築観」の時代としては、16世紀から現代までを扱った。ここでは特に16世紀のヨーロッパ人が「野蛮」という概念を用いて、中世の建築を破壊して新たな建築に置き換えようとした「再開発」が、いかなる価値観のもとで、どのように実践されていったのかを明らかにした。ここでは「破壊」の理由となった「野蛮」の概念と、「新築」の導き手となった「形式主義」がきわめて重要なものだったことが明らかになった。 「文化財的建築観」の時代としては、19世紀から現代までを扱った。上記の議論に基づいて、文化材における「修復」という行為が、なぜ建築の時間を巻き戻そうとしたのか、という点が「野蛮に対する干渉」という観点から明らかになった。また時間を止める「保存」という行為が、近代的な建築観と結びついていたことも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の2本柱である「構築」と「再利用」のうち、「再利用」についての研究は1冊の書籍にまとまり、本書の刊行によって一応の完結をみたといえる。当初の計画では、2つの柱を同時並行で進める計画であったが、2015年度中に「再利用」の研究が大幅に進んだため、昨年の実施状況報告書において、全4年の研究期間のうち前半2年間を「再利用」の研究にあて、後半2年間を「構築」の研究にあてるように、方針を転換することを報告した。本年度はその「再利用」の研究のまとめの年であったが、無事に書籍の刊行まで行き着いたため、ここまでは順調に進展しているといえる。 来年度からの2年間で、いかに効率よく、もう1つの「構築」の研究を進めるかが、今後の課題となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」でも説明したとおり、ここまで建築の「再利用」という観点から、西洋建築史学の再構築の可能性を模索し、ひとつの研究成果をあげることができた。今後は「構築」に関する研究を推し進めていく必要がある。 2016年度10月に刊行した訳書『近代建築理論全史』(H.F.マルグレイヴ著、丸善出版)は、この構築の観点が色濃く反映された近代建築史に関する研究書であり、近代の建築史を構築という観点から考えていくひとつの道筋を示してくれた。本年度は本書の観点を参照しながら、まず近代建築史と構築の関係について、研究を進めていく予定である。 また既存建物の「再利用」という建築行為は、本質的に構築的なものであり、その点から、「再利用」と「構築」の結びつきについても、具体的な事例に基づきながら研究を進めていく予定である。
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