2017 Fiscal Year Research-status Report
太平洋戦争期における歴史的建造物・環境の保存に関する研究
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15K06406
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Research Institution | Gakushuin Women's College |
Principal Investigator |
ウーゴ ミズコ 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 准教授 (80470029)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 戦災復興 / 復元 / 再建 / 歴史的環境 / 歴史的建造物 / 旧市街 |
Outline of Annual Research Achievements |
文化財保護対策のあり方について、とりわけ太平洋戦争期から戦直後の状況に着目した結果、次のことが明らかになった。まず、戦中に行われた保護事業(建造物の偽装、部分的な移築や疎開、土嚢を使っての補強)、さらに戦直後の戦災調査、保存修理方針のあり方をさまざまに検討した結果、建築文化財の保護対策推進の原動力は、行政の精密に計画された政策というより、個々の責任者の行動力と決断力による部分がきわめて大きいことが分かった。次に、戦後の対策については、GHQ/CIE(民間情報教育局)の職員として派遣された英語教員(A. Del Re, 1892-1974)の資料(オーストラリア国立図書館蔵)を調査した結果、GHQは戦前から日本に滞在し、文学や演劇を含む日本文化に興味をもつ専門家を職員として派遣していたこと、戦災復興に関する占領機関の方針よりも、現場の考え方を把握することができた。 日本国内においても欧州においても第二次世界大戦と建築遺産関連の研究は進められているが、現在、欧州(フランス、イタリア)では戦災状況の全体像が徐々に明らかになっているところである。ただし、その後の保存修理方針との兼ね合いや復元行為の是非については、まだこれからの研究によって明らかにされなければいけない部分がかなりあることが分かった。その意味で、日本との綿密な比較研究がこれまで以上に意義のある作業になるということを強く意識することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、太平洋戦争期における歴史的建造物と歴史的都市環境の保存を中心に進められている。その方法としては、欧州、特にイタリアとの比較を行うことにより、当初の傾向を把握することを目指している。これまでは、研究はおおむね予定通りに進めることができた。日本国内の状況を把握することから出発し、徐々に国内外の事例を増やしていくことができた。それぞれの戦災復興に関する考え方や方法が異なるため、今後は、分析を重ねることで研究を進めたい。また、日欧の有意義な比較ができるよう、最も良い基準や方法を模索していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、欧州(特にフランス、イタリア、ポーランド)における調査をより充実させ、現地調査以外に資料調査(研究書、当時の雑誌・新聞、行政の資料)と専門家との交流を重点的に進める予定である。また、当初の専門家の資料(文化財保護行政所属の建築家や都市計画家により作成された資料)を利用し、それぞれの指定された文化財修理事業だけでなく、特にそれらと都市復興計画との関連性をあきらかにしたい。それは、研究対象を歴史的建造物だけでなく、それらを取り巻く都市空間や歴史的環境をも視野に入れることが重要と考えるからである。それにより建築遺産がどのようにして地域再生や住民の生活基盤を取り戻すために役立つのかを具体的に考えることができるだろう。 さらに、2018年は、第一次世界大戦終戦後100周年にあたり、欧州の様々な国で展覧会や講演会といった記念行事と研究発表が行われる。そのような最新資料も参照する予定である。 引き続き、第二次世界大戦後を中心に、都市の戦災復興状況の研究を進めたい。国外の事例(コベントリー、ロンドン、ワルシャワ)を増やすとともに、旧市街の戦災復興事業がどのようにして行われたのかについて考察を進めたい。モニュメントが戦災復興の象徴になるケース、都市の一地域全体にあたる旧市街の復元を市民が求め協力するケース、戦災復興の様々なかたちについて理解を深めていく予定である。 本研究を通じて現在も有効な文化財を中心とした戦災復興基準を見つけ出すことができることも必要である。歴史資料や体験を基盤に成功した戦災復興のための方針とそうでない方針を分析することにより、戦災復興のための具体的な方法を提案し、今日の都市再生問題への貢献(ユネスコや世界銀行などが企画)も図れるのではないかと考える。
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Causes of Carryover |
年度末に購入予定の研究書(『Monumenti Violati』、Nardini出版、2017年、イタリアにおける戦中の歴史的建造物の保護について)が入手できなかったため。使用額はきわめて小さく、全体の研究進捗状況には特段の影響もない。当該の研究書も入手の見込みである。
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Research Products
(2 results)