2016 Fiscal Year Research-status Report
室町時代以降における公家住宅の実態ならびに「寝殿造」の成立と意義に関する研究
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15K06413
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
藤田 勝也 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (80202290)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 織戸 / 織戸中門 / 寝殿造 / 都市化 / 公家住宅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本住宅史の再構築のため、これまで未解明であった室町時代から江戸時代に至る時期の公家住宅の全体像を解明するとともに、とくに中世公家社会における住宅観について詳細な検討を加えることにある。 平成28年度は上記目的のうち、とりわけ後者に関連して研究実績を挙げることができた。具体的には、これまでその実態が不明であった宮廷、公家住宅における織戸、織戸中門の機能や性格の分析を通して、彼らの住宅観の一端を明らかにしたもので、その成果は西山良平・鈴木久男・藤田勝也編著『平安京の地域形成』(京都大学学術出版会、2016年10月)に、「平安・鎌倉時代の織戸、織戸中門」(255~289頁)「実は織戸は絵巻に散見する」(290~296頁)と題する論考・コラムとして公表した。 それら論考等において解明した論点は多岐にわたるが、本研究との関連では以下の点が指摘できる。寝殿造が都市住宅の様式として成立し、とくにハレの空間に規範性をもって継続したのに対し、織戸・織戸中門はハレの儀礼空間には相応しくない質素・簡略な手法と見なされており、その意味ではいわば非寝殿造的な存在であった。しかし一方で、平安京の都市化の進展を背景に、それらを鄙びた風情を醸し出すものとして敢えて意図的に設けることがあったということである。都市住民としての宮廷・公家達は住まいをより都市的に深化させようとした、その住宅観は、寝殿造という様式の継承の一方で、住宅内部により多様な様相を呈して具体化していたことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的にてらして設定した課題の一つは、公家住宅の中世以降の実態把握によって、古代に初発する公家住宅の歴史全体を明らかにすること。二つ目は、中世公家が思い描いた平安貴族の住宅像の詳細な検証によって、平安復古様式として近世末まで継承された寝殿造の本質と中世公家の住宅像をもとに創出された「寝殿造」の乖離を具体的に明確化することである。 中世、室町時代における公家住宅の実態把握および、中世公家が思い描いた平安貴族の住宅像の解明のためには、公刊史料の博捜・整理・分析が中心となる。それらの作業を鋭意行っているが、平成28年度は、室町時代を前・中・後の3期、すなわち南北朝時代、その後応仁の乱まで、さらに乱後の戦国時代にわけて整理・分析している。前期では日野家の傍流柳原家の邸、洞院家の中園殿、中期では三條家の高倉殿、日野資教の邸、花山院持忠の邸といった摂関家の下位に属する公家邸の方が、近衛、一條、二條、鷹司など五摂家の邸よりも整備されていたという実態を把握しつつある。また後期には摂家をはじめ公家の意識の中に、後の寝殿造像を規定するかのような、平安貴族住宅に対する固定化したイメージの萌芽を確認している。 また裏松固禅や松岡辰方といった近世故実家によって収集された住宅関連史料についても調査・収集が不可欠であり、平成28年度はとくに固禅編輯の『宮室図』に注目して、収載される絵図・指図の詳細な分析と検証を前年度に引き続き行い、またそれらのトレース図も作成してきた。さらにまた京都市内各地での発掘調査による新たな知見についても、継続して情報の蓄積と関連史料の収集につとめている。 本研究は平成29年度が最終年度にあたるため、上記のごとく収集しつつある関連史料をもとにした分析と考察をさらに深化させる必要があるが、平成28年度を終えた現時点では、本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27~28年度に引き続いて関連史料の調査・収集をさらに継続、深化させる。またそれらの史料をもとにした検証と考察の作業を行う。これまでの研究経過(前項、現在までの進捗状況を参照)を踏まえ、次の2点に焦点を絞って集中的に研究作業を進める。 第一は、室町時代の公家邸の実態把握と総合的かつ詳細な分析である。当該期は足利将軍御所をその代表とし、加えて内裏や院御所という朝廷・公家社会の最上位にある階層の住宅が取り上げられ、それらをもって中世住宅として評価してきたのが既往研究の実情であり、摂家以下の一般公家の住宅は、いわば研究の空白地帯であった。しかし近世以降の公家とくに摂家における平安復古の実現という事実に鑑みて、寝殿造の歴史全体を通時的に把握するためには、室町時代の公家邸の実態把握と彼らの住宅観の解明は不可欠の作業となる。 第二は、固禅編輯の史料の中で、とくに『宮室図』に注目して詳細な分析を加えることである。同書は絵巻物の画面の抄出図が大半を占め、寛政度内裏の復古造営では建物細部を作事現場で確認するための基礎史料としても活用された。『大内裏図考証』の内容を裏付ける絵図・指図集であり、同じ固禅編輯の『院宮及私第図』に対して平安宮や内裏など宮廷の殿舎に関する史料という側面があるが、収載される絵図・指図には近世公家の住宅観が反映されている点で重要である。そこで同史料の書誌学的検証を含めた精細な分析を行う。なお上記作業と併行して、いわゆる未発掘、未解明の史料、指図についても鋭意、悉皆的な収集と整理につとめ、それらの描写内容の分析を通して屋敷の特定や建築的特徴の解明を図る。
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Causes of Carryover |
関連文献(図書)の納品、史料整理の依頼が当初予定より若干遅れたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
納品は次年度にはいって後、すみやかに完了し、支払い手続きが行われる。また史料整理の依頼も継続して行い、謝金の支払い手続きを逐次進める。次年度使用額の大半はそれらによって消化されるため、平成29年度の交付額は計画通り使用する予定である。具体的には、史料閲覧と収集のための出張旅費、関連史料・文献の購入費、史料整理のための人件費(謝金)、史料収集と情報交換のための交通費そして、学術誌への登載料など研究成果の公表のための経費(その他)に支出の予定である。
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Research Products
(1 results)