2016 Fiscal Year Research-status Report
動力学的回折効果を考慮した電子線ホログラフィーによる電磁場解析法の確立
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15K06419
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
赤瀬 善太郎 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (90372317)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 電子線ホログラフィー / 動力学的回折効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電子線の多重散乱を考慮した動力学的回折理論を用いて、結晶試料内部の電子線の位相変化をより正確に把握した解析手法を確立し、電子線ホログラフィーの適用範囲の拡張を図ることを目的としている。 28年度は実験結果と計算結果を比較し、電子の位相変化に動力学的回折効果が生じていることを実証することを目標とした。実験では、まずFIBを用いてシリコンウェハをくさび形に加工した試料を準備した。次にTEMを用い、明視野像観察にて220反射励起時の等厚干渉縞を観察し、同じ電子線入射条件でホログラムを撮影して位相変化を調べた。試料を僅かずつ傾斜されることで220反射の励起条件を変化させながら、各励起条件における位相変化を調べたところ、ブラッグ条件を完全に満たしたとき等厚干渉縞の強度がゼロになる厚さにおいて位相が180°反転する様子が観察された。また、試料傾斜によりブラッグ条件から外す際に、傾斜方向によって位相変化の進み方が異なっていることが実験的に明らかになった。計算では27年度にα鉄結晶用に作製していた計算プログラムを28年度にシリコン単結晶用に書き直して計算を行い、今回の実験結果を再現することに成功した。 実際に計算結果を実験結果に合わせることで、現象の理解が進んだ。従来の解釈では平均内部ポテンシャルによる電子線の速度変化のみを考慮していたのに対し、今回のブラッグ条件近傍での複雑な位相変化は、電子の速度の異なる複数のブロッホ波の励起と、その励起される割合の回折条件依存性により説明できると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果の概要に記したように、回折波励起時の電子線の位相変化の状況を実験と理論の両面からとらえることに成功し、本課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験に関しては、今回作製したくさび形の単結晶シリコン試料は、検証に適したものであることが分かったため、引き続きデータを取得し、理論との比較を行っていく。28年度では回折条件の調整を試料傾斜機能を用いて行っていたが、今後は電子ビームの入射方位を傾斜させることで、回折条件をより細かく制御する予定である。解析に関しては、28年度の結果より、ブラッグ条件近傍での異常な位相変化は、分散面間の距離(消衰距離の逆数)やブロッホ波の励起条件に起因していると考えられたので、消衰距離やブロッホ波の励起係数などにも着目し、シリコン以外の試料にも起こりうる一般的な現象としての理解を進めたい。
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Causes of Carryover |
電子顕微鏡試料作製を当研究室が所有する装置で作製しため、外注しなかった分、経費を削減できた。しかし次年度は精度を上げた実験を行いたいと考えており、外注も検討している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験の追試、成果発表に伴う経費が増える予定である。
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Research Products
(4 results)