2016 Fiscal Year Research-status Report
ソフト化学プロセスによる次世代型希土類フリー銅酸化物超伝導体の創製
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15K06433
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
加藤 雅恒 東北大学, 工学研究科, 准教授 (50211850)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超伝導 / フッ素 / 銅酸化物 / 低温合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,主としてSr2-xBaxCuO2F2+dに着目した.この物質は代表的な超伝導体(La,Sr)2CuO4と同じ結晶構造を有する.Ba量xの増加とともにTcは上昇し,これまでの最高のTcはx(Ba)=0.6のときの64Kである.しかし,これ以上Baは固溶しない.本研究では,Baの固溶量を増大させ,Tcの上昇を図った. 初めに固相反応法でSr2-xBaxCuO3を作製した.前年度の成果でx(Ba)=0.6を大きく超えBaの全置換に成功している.次に,これにフッ素を導入して超伝導体Sr2-xBaxCuO2F2+dの合成を行った.フッ素源としてPTFEとCuF2の2種類で試みた.PTFEを用いた場合には,Sr2-xBaxCuO2F2+dは得られなかった.PTFEの分解後に残る炭素が,母体Sr2-xBa-xCuO3+dから過剰に酸素を取り除くためかもしれない.CuF2を用いた場合は,様々な条件下でフッ素化を行った結果,230℃で,6時間,大気中が最適条件であると結論した.そして,0≦x(Ba)≦2.0の全ての試料で超伝導体Sr2-xBaxCuO2F2+dの合成に成功した.Tcは,x(Ba)=0においては先行研究の46 Kより高く55 Kであった.先行研究で最高のTcを示したx(Ba)=0.6では,先行研究とほぼ一致しTc ~ 65 Kであった.しかし,x(Ba)=1.0では,急激に約30 Kまで大きく減少した.この原因は今のところ不明である.その後,x(Ba)の増加とともに,再びTcは上昇し,x(Ba)=2.0において,74 Kにまで上昇した.よって,先行研究の最高値を約10K向上させることに成功したと言える.しかし,5Kでの超伝導体積分率は数%以下と,かなり小さいという問題点が残った. また,新物質Sr2-xBaxCuO2H2+dの合成も試みたが今のところ得られていない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,希土類金属を含まない銅酸化物において、高い超伝導転移温度Tcを有する超伝導体の創製を目指すが,ベースとなる物質はSr2-xBaxCuO2X2である。この物質を合成するには、その母体となるSr2-xBaxCuO3を合成する必要がある。これまで、通常の固相反応法ではBaの固溶限界はx=0.6とされてきたが、本研究では1年目においてx=2.0まで拡げることができた点は高く評価できる。これをもとに,2年目にはSr2-xBaxCuO2F2+dを作製した.超伝導体積分率が非常に小さいため確かなことは言えないが,従来の最高のTc=64Kを10Kも超える74K付近で超伝導転移の兆候を観測することに成功した.よって、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
Sr2-xBaxCuO2F2+dにおいて,まずは超伝導体積分率の向上を図る.次にTcのさらなる向上を図る.まず。超伝導体積分率が小さいのは,結晶粒が小さいと表面積が増えて磁場が侵入する体積が増えるためであると考える.そこでフッ素化前のSr2-xBaxCuO3を高温で長時間焼成して結晶粒径を大きくする.高温で焼成するためにはこれまで大気中で行っていたが、酸素気流中で行う必要があると考える。次にフッ素量を制御してホールキャリア濃度を最適化することによって Tcの向上を図る.フッ素量の制御は、フッ素源のCuF2の量を調整することと、試料を得た後で、アルゴン気流中でアニールしてフッ素量を減らすことを考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度請求額とあわせ、平成29年度の物品費(消耗品費)として使用する予定である。
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