2015 Fiscal Year Research-status Report
グリーン溶媒から創製される高性能繊維の強度発現機構解明とさらなる性能向上
Project/Area Number |
15K06481
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
後藤 康夫 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (60262698)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
綿岡 勲 京都工芸繊維大学, 繊維学系, 助教 (70314276)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高強度繊維 / イオン液体 / アクリル / 溶液紡糸 |
Outline of Annual Research Achievements |
繊維の高強度・高弾性率化は、省資源・省エネルギーと材料の信頼性向上をもたらしサステナビリティ社会・安全安心社会の構築に貢献する重要な研究課題である。申請者は、高性能炭素繊維の前駆体であるポリアクリロニトリル(PAN)をイオン液体(IL)に溶解し、ゲル形成を実現する条件での湿式紡糸・乾熱延伸を行うことで極めて高強度なPAN繊維が得られる画期的な製造法を見いだした。本研究では、この検討結果に基づいて得られる高性能PAN繊維の強度発現機構を解明するとともに、更なる高強度化につながる要因を明らかにし、強度2 GPaを超える高強度PAN繊維を作製することを目的として検討を行った。 湿式紡糸により作製したAs-spun繊維について小角X線散乱測定より構造を調べた結果、従来溶媒(DMSO)では多数のミクロボイドが形成していることが確認されたが、ILである1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(BmimCl)を溶媒として紡糸した場合はミクロボイド形成は顕著に抑えられていた。ILを使用すると、高強度化の阻害要因であるボイド形成が大幅に抑制できたため、高強度化につながったと考えられた。 2GPaを目標とした高強度繊維化は、分子量数十万の高分子量試料を原料とし、種々の条件で作製した紡糸繊維を二次延伸することによって検討した。その結果、PAN濃度約10wt%の溶液を使用することで目標を達成できた。得られた繊維の微細構造を調べたところ、結晶配向度は約0.97に達し、分子鎖の配向性は極めて高いことが明らかとなった。また延伸倍率が増加しても破断伸度が低下しないことが分かった。一般的には高配向・高強度高分子材料は、延伸倍率・配向度の増加に反比例し破断伸度が低下するが、本検討の試料は、高強度であるのに破断伸度が低下しない、すなわち高タフネス繊維であるという極めて有用性の高い結果であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載の初年度の目標はほぼ達成できた。特に引張強度は目標値2GPaに達したので、今後はさらなる高強度化を目指して検討を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた通り、以下の三点について検討を進めていく。 ① 繊維の延伸と力学物性・構造評価:種々の条件で紡糸・延伸した繊維について力学物性および小角X線散乱、広角X線回折、偏光顕微鏡等の各測定を行う。延伸前の構造との比較により、強度向上に関わる構造パラメーターを明らかにしていく。小角X線散乱測定を担当する綿岡は、H28年4月~H29年3月までオーストリアへ留学しているが、留学前に実験データを留学直前に録りためており、留学先で順次解析し申請者へフィードバックしていく予定であるので特に問題ない。 ② 延伸繊維の引張強度以外の多面的な特性評価:一般的なPAN繊維の大きな欠点として、曲げや摩擦などの力学的負荷により微細繊維状に裂けるフィブリル化がある。フィブリル化は、紡糸時に形成されるマクロボイドを起点とし延伸時にボイドが細長く成長することでより顕著になり、結果的に強度低下や耐疲労性低下につながる大きな問題となる。BmimClから作製されたAs-spun繊維は透明性が高く光学顕微鏡レベルで観察されるマクロボイドは観察されず、延伸繊維も透明性を維持したままであった。この事実から、本課題の試料は従来繊維と比較して耐フィブリル性に高い耐疲労性を持つことが期待される。また上記特性は繊維構造と密接に関わっているため、構造を間接的に明らかにしていくためにも、フィブリル化試験ならびに屈曲疲労試験を行う。 ③ PAN延伸繊維の炭素繊維化:前駆体PAN繊維のさらなる高強度・高弾性率化を実現することは、CF製造において以下の2点において大きな意義をもたらす。①高強度化が繊維製造時の糸切れに伴うトラブルを低減し、生産性の向上をもたらす。②CFのさらなる高性能化をもたらす。耐炎化・炭素化工程での張力アップにより1000℃程度で製造されるアクリル系高強度タイプCFの欠点である弾性率の向上につなげていく。
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