2016 Fiscal Year Research-status Report
チタン及びその酸化物に対する新しい熱還元・炭窒化プロセス開発
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15K06509
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
森園 靖浩 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (70274694)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | チタン / 酸化チタン / 鉄粉 / グラファイト / アルミナ / 還元 / 炭窒化 |
Outline of Annual Research Achievements |
Ti(C, N)系サーメット工具は,超硬合金と比較して耐摩耗性や耐酸化性などに優れる一方で,その主成分であるTi(C, N)粉末を所望の組成や粒径に合成することは難しいとされている。このため,現在の製造法では生産性が悪く,製造コストが高くなるといった問題がある。ところで,我々のグループは,粉末冶金の分野で多用されている「カーボニル鉄粉」を利用することで,チタンの表面に炭素や窒素を容易に拡散できることを見出した。しかも,この方法は酸化物の還元にも利用可能である。そこで本研究では,この鉄粉を使った,新しい熱還元・炭窒化プロセスについて調査し,Ti(C, N)粉末の合成を目指した。 酸化チタン(ルチル)粉末約1 mLをアルミナ製の耐熱坩堝の底に敷き,その上に鉄粉,グラファイト粉,アルミナ粉を1:1:1で混ぜた粉末約6 mLを載せた。次に,坩堝ごと大気中で1373Kに1時間保持後,炉冷した。その結果,ルチル粉末は熱処理前の白色から黒色に変化し,さらにXRD測定の結果から,低次の酸化チタンの生成が示唆された。そこでTEM観察を行ったところ,ルチル粉末を取り囲むようにアモルファス状の炭素が確認された。すなわち,ルチル粉末が炭素膜でコーティングされていた。また,粉末内部にはマグネリ相と思われる組織が観察され,ルチルの還元が生じた可能性がある。 保持時間を増加すれば,ルチル粉末から金属チタン,さらにはTi(C, N)が得られるものと期待される。そこで,保持時間の影響を調査したが,そのような変化は認められなかった。これは,大気中で加熱しているため,混合粉末中の鉄粉の酸化が進行し,ルチル粉末に変化をもたらす雰囲気を長時間維持することが困難になったためである。したがって,ルチル粉末からTi(C, N)粉末を直接作り出す【熱還元・炭窒化連続プロセス】の実現は難しいことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように,ルチル粉末からTi(C, N)粉末を直接得る【熱還元・炭窒化連続プロセス】の実現は困難なことが判明した。しかしながら,粒径15~45ミクロンのチタン粉末を出発材料とすることでTi(C, N)粉末(但し,酸素も固溶している)を得ることには成功した。驚くべきは,鉄粉・グラファイト粉・アルミナ粉を混ぜた粉末をチタン粉末の上に載せただけにもかかわらず,大気中の加熱であってもチタンの過度の酸化は抑えられ,しかも粉末同士は焼結せず,全ての粉末内部に炭素や酸素,窒素の拡散が認められたという点である。また,これを板状に加工したチタンに対して適用した場合にも同様な結果が得られた。このような研究報告はこれまでになく,真空排気装置を使用しなくても試料の酸化を避けられる,新たな熱処理法・表面改質法として大変興味深い。しかし,このような現象が発現する理由について調査を続けているが,その明確な答えは未だ得られていない。これを明らかにすることが,【炭窒化プロセス】を確立するための最優先の課題であると同時に,【熱還元プロセス】の理解にも繋がるものと期待する。したがって,最終年度となる平成29年度は,この原因究明に絞って研究を推進する。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄粉・グラファイト粉・アルミナ粉を混ぜた粉末で金属チタン(粉末または板)上を覆ってから,大気中で1000℃付近に加熱した場合,チタン表面の過度の酸化が避けられる一方で,その中には酸素や炭素のみならず,大気中の窒素も拡散される。この現象は,真空排気装置を使用せずに酸化が抑えられる点で興味深く,新しい熱処理法・表面改質法として利用価値が高いと考えている。しかし,この現象の発現機構を明らかにすることは,本研究課題の【熱還元プロセス】・【炭窒化プロセス】の確立に不可欠であるにもかかわらず,未だ明確な答えが得られていないのが現状である。 最終年度となる平成29年度は,大気中,1000℃を中心とした高温域で,鉄粉・グラファイト粉のみから成る混合粉末を使ってチタン粉末の熱処理を実施する。なお,鉄・グラファイト混合粉末は1150℃付近で溶融する可能性があるため,熱処理時の最高温度を1100℃に設定する。[1]チタンの微細組織に及ぼす鉄・グラファイトの粉末比の影響,[2]熱処理によって焼結した鉄・炭素混合粉末の微細組織観察,の2つの項目について,まずは取り組む。その後,[3]鉄・グラファイト混合粉末へのアルミナ添加の影響,や[4]チタンの微細組織に及ぼす混合粉末量(充填高さ)の影響(この場合のみチタン板を使用)についても調べ,現象解明に役立つ情報を得る。
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Causes of Carryover |
2016年4月に発生した「熊本地震」により多くの研究機器が損壊し,活動が大幅に制限されたため,使用額に約20万円の差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度における研究費の使途は,平成28年度と同様,『消耗品費』・『国内旅費』・『その他』の3つである。『消耗品費』では,「金属素材」をはじめ,試料の切断・研磨作業に用いる「ダイヤモンド砥石・研磨剤」,研磨後のエッチング等に用いる「化学薬品」,熱処理に必要な「電気炉補修部品」などを主に購入する。また『国内旅費』では,日本金属学会あるいは日本鉄鋼協会の講演大会に参加し,成果発表や情報収集を行う予定である。『その他』としては,国内外の論文誌に発表するための「研究成果投稿料」が該当するが,場合によっては「分析機器使用料」等への支出も考えている。
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