2015 Fiscal Year Research-status Report
低パス回数ECAPによるステンレス鋼への高密度ナノ双晶導入とその力学的特性
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15K06510
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
兼子 佳久 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (40283098)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 真 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 講師 (90432624)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超微細粒材料 / 強ひずみ加工 / ステンレス鋼 / 双晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,SUS316Lステンレス鋼についてはECAP加工と中間熱処理とを組み合わせたナノ双晶構造の改善,SUS304Lステンレス鋼についてはECAP加工履歴と引張強度・低サイクル疲労特性との関係を中心に研究をおこなった。 まずSUS316L鋼はまず1回のECAP加工行い,2パス目の加工を行う前に中間熱処理として823K~973Kで1時間の焼鈍を行った。2パス目のECAP加工はRouteAとRouteBcの二種類で行った。873Kの中間熱処理を施した2パス材をTEM観察した結果,RouteAではほぼ同じ方向の変形双晶が,RouteBcでは高角度で交差した2種類の変形双晶がそれぞれ確認された。種々の中間熱処理の結果,RouteA,Bcともに873Kの中間熱処理を施した2パス材が最も双晶密度が高くなることが判明した。それらに対して引張試験を実施した結果,単なる2パス加工材に比べて中間熱処理を施したSUS316L鋼は,引張強度に大きな変化はないが,均一伸びを示すひずみの大きさが高くなった。973Kの中間熱処理で均一伸びは最も高い値となった。なお,Route Bcの873K中間熱処理材では,単なる2パス加工材より引張強度が明らかに増加した。 SUS304L鋼に対しては,Route AとBcで2パス加工を施した後,低サイクル疲労試験を一定塑性ひずみ振幅の条件で実施した。単なる焼入材に比べ,ECAP加工材では応力振幅が向上した。2パス材同士で比較すると,Route BcがAに比べ応力振幅が高くなった。一方で,ECAP加工材では初期に急激な繰返し軟化が見られた。軟化の程度は,2パス加工材では1回加工材に比べ抑えられた。SUS316L鋼と比較すると,高い塑性ひずみ振幅では応力振幅が高くなった。X線回折の結果,このような応力振幅の向上はα’相の形成が原因であると推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,(1)2回までのECAP加工によって,α’マルテンサイト相の形成を抑えつつ,ナノ双晶密度を極限に高めたSUS304ステンレス鋼を開発する。(2)ナノ双晶を高密度に形成させたSUS304鋼に対し,各種力学試験や腐食試験を実施し,ナノ双晶密度と材料特性との関係を調査する。(3)デジタル画像相関法やEBSD法などの解析技術を援用して,ナノ双晶を高密度に含む材料の変形の微視的過程を明らかにしていく,であった。 平成27年度は,まず予備的な双晶密度増加の検討として,マルテンサイト相が形成されにくいSUS316Lステンレス鋼を用いて,中間熱処理の導入によるナノ双晶の高密度化を試みた。適切な温度の中間熱処理を施すことによって,様々な形態や密度でナノ双晶が2パスのECAP加工により導入されることが分かった。 SUS304Lステンレス鋼の力学的特性については,1パス材,Route BcおよびRoute Aの2パスを用意して,引張試験と低サイクル疲労試験を実施した。150℃のダイス温度でのECAP加工では,1パス加工材と2パス加工材ともにα’マルテンサイト相の形成が抑制されることが確認された。ナノ双晶が形成される領域は全体の約50%であったため,引張試験や低サイクル疲労試験では,高い強度を示す反面,α’マルテンサイト相の形成が生じることが確認された。すなわち,ナノ双晶構造の材料内の分布が室温でのマルテンサイト相形成や力学的特性に影響を及ぼすことが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究結果を踏まえて,平成28年度は以下の内容を中心に研究を進める。 まず,ECAP加工とナノ双晶構造との関係をさらに詳細に調査すべく,研究実績のあるSUS316L鋼について,中間焼鈍温度を異常粒成長領域まで拡大し,1回目のECAP加工で双晶が形成されなかった領域にもナノ双晶が高い頻度で形成されるような条件を調査する。また,SUS316L鋼の実験結果を踏まえて,SUS304L鋼に対してもナノ双晶密度が増加するような加工条件を調査する。さらに,SUS304LのECAP加工材の実用性を検討するために,高サイクル疲労試験を実施し,疲労強度が高まるような加工履歴や中間熱処理温度を明らかにし,それらとナノ双晶構造との関係を調べる。 また,ナノ双晶構造と変形の不均一性との関係を調査するために,試料表面に酸化マグネシウムなどを蒸着させ,それを基準にしたデジタル画像相関解析をひっぱしへンケイン試験において併用し,不均一変形の程度と微視的構造との関係を明らかにしていきたい。
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