2015 Fiscal Year Research-status Report
極強加工と水素誘起分解再結合を利用した高機能積層型水素吸蔵合金の開発
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15K06519
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
田中 孝治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電池技術研究部門, 主任研究員 (40357439)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹下 博之 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (20351497)
近藤 亮太 関西大学, 化学生命工学部, 助教 (60709088)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超積層体 / 合金化 / 成長 / 活性化エネルギー / 頻度因子 / 動的再結晶 / 繰り返し圧延 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Mg/Cu超積層体の低温熱処理によるMg2Cuの成長の活性化エネルギーと頻度因子の決定を主に行った。繰り返し圧延回数による変化の可能性を考慮に入れ、標準試料として繰り返し圧延を20回行った物、参照試料として繰り返し圧延を10回、30回行った物を作製した。試料をAr雰囲気下で石英管に封入し、オイルバスにて熱処理温度373K ~ 453K、熱処理時間1.8 ks (0.5 h) ~ 2,592 ks (720 h) の範囲で熱処理してMg2Cuを成長させた。Mg2Cuの成長厚さは、SEMによる断面観察とXRD測定を組み合わせて見積もった。成長厚さと熱処理時間の関係から、Mg/Cu超積層体におけるMg2Cuの成長は、Mg-Cu拡散対同様に拡散律速であると解った。成長厚さと熱処理時間から各温度での成長係数を求め、これらの値を元にアレニウスプロットからMg2Cuの成長の活性化エネルギーと頻度因子を求めた所、繰り返し圧延回数、10、20、30回の試料がそれぞれ、103 ± 12 kJmol-1、8.1 × 10-7 m2s-1、101 ± 6 kJmol-1、1.8 × 10-7 m2s-1、107 ± 2 kJmol-1、1.7 × 10-6 m2s-1となり、活性化エネルギーに圧延回数による顕著な差は見られなかった。これは、繰り返し圧延により、MgもCuも動的再結晶を起こし、結晶粒径や欠陥密度の差が、活性化エネルギーに差が出るほどでは無いためと思われる。先行研究のMg-Cu拡散では、それぞれ156 ± 10 kJmol-1、1.5 × 10-3 m2s-1である。Mg-Cu拡散対に比べ活性化エネルギーが低いので、Mg/Cu超積層体では400 K程度の低温で合金化が起こることが解った。また、頻度因子は、MgとCuの界面密度と関連があると推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
繰り返し圧延20回の場合、圧延前にMgを酸洗いした場合と酸洗いしなかった場合で、Mg2Cuの成長の活性化エネルギーと頻度因子に顕著な差が見られなかった。酸洗いしなくても、繰り返し圧延によりMg表面のMgO膜が破断し、圧延回数の増加と共にMgOの離散度が大きくなり、破断したMgOの間からMg2Cuが成長すること、そもそも酸洗いしてもしなくてもMg表面のMgO膜の存在割合が低く、MgOの存在によるMg2Cuの成長の阻害が系全体の合金化に大きな影響を与えないことによると考えられる。 また、繰り返し圧延10 ~ 30回では、Mg2Cuの成長の活性化エネルギーと頻度因子に有意な差が見られなかったが、初期水素化特性は繰り返し圧延10回と20回以上では大きく異なった。それは、水素吸蔵が本格的に始まる温度まで加熱した時点でのMgの残留量の差に起因すると考えられる。つまり、繰り返し圧延回数の増加と共に組織が微細化し、As-rolledのMg層の厚みが薄くなるが、同程度にMg2Cuが成長するなら、繰り返し圧延回数が少ない場合はMg層が充分に薄く無いので、Mgの残留量が多くMgの水素化が主体となる。一方、繰り返し圧延回数が多い場合には、Mg層が充分に薄いので、Mgの残留量が少なく、Mg2Cuの水素化が主となる。そのため、圧延回数により初期水素化特性が異なったと考えられる。以上の様に、酸洗いの有無と繰り返し圧延回数がMg2Cuの成長の活性化エネルギーと頻度因子に大きな影響を与えないことを明らかにし、繰り返し圧延回数が異なると、初期水素化特性が大きく異なるのは、Mg2Cuの成長の活性化エネルギーや頻度因子に違いがあるためでは無く、組織の微細化度によりMgの水素化とMg2Cuの水素化のどちらが主たる反応になるかによることを解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
Mgは高容量に水素吸蔵するが、水素吸蔵・放出温度が高いことと反応速度が低いことが問題である。組織を微細化すれば反応速度の向上が期待出来るので、種々の系に対して組織の微細化を目指した試料作製を試みる。 1.Mg/Cu系:本年度、Ar雰囲気下と水素雰囲気下で、423 K ~ 773 Kの温度範囲において50 K刻みでMg/Cu超積層体を昇温してDSC測定し、その試料をXRD測定、SEM観察して、どの温度域で何が生成するか見当を付けた。今後は、解析手法と実験条件を検討し、組織の最適化のため、初期水素化過程における合金化と水素化の競合反応による組織形成メカニズムの詳細な解析を行う。 2.Mg/Fe系:組織の微細化のために微粒子化すると熱伝導性が悪くなり、熱の出入りを伴う水素吸蔵・放出プロセスにとって不利になる。バルク体である超積層体は組織の微細化と熱伝導率を低下させないことを両立できる可能性がある。しかしながらMg単相で超積層体を作製した場合、水素吸蔵・放出の際の加熱でMg層が融着してしまい、期待通りの微細化が起こらない。そこで、Mgに固溶しないFeを電解メッキし、それを繰り返し圧延することにより、Mg層の組織の微細さとFe層による熱伝導性を確保したMg/Fe超積層体作製法を検討する。 3.Mg/Al系:Mg/Cu超積層体では、通常の条件で水素化した場合、安定状態がMgH2 + MgCu2で有るため、Mgの高容量水素吸蔵特性を充分に生かせないという欠点がある。一方、AlはCuよりも柔らかく組織の微細化が期待でき、また、水素化後の安定状態がMgH2 + Alであるので、高容量の水素吸蔵も期待出来る。微細な組織を作製するため繰り返し圧延の途中で適度に焼鈍し、MgとAlの歪みを除去して繰り返し圧延の回数を稼ぐことにより、微細な構造を持つMg/Al超積層体の作製を目指す。
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