2016 Fiscal Year Research-status Report
極強加工と水素誘起分解再結合を利用した高機能積層型水素吸蔵合金の開発
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15K06519
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
田中 孝治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電池技術研究部門, 主任研究員 (40357439)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹下 博之 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (20351497)
近藤 亮太 関西大学, 化学生命工学部, 助教 (60709088)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超積層体 / 繰り返し圧延 / 活性化エネルギー / 低温合金化 / 示唆走査熱量測定 / 微細組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はMg/Cu超積層体の微細組織と示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry, DSC)プロファイルの形状との関係について調べた。DSCにてMg/Cu超積層体(Mg:Cu = 2:1))を繰り返し水素・吸蔵放出させた場合、DSC 1サイクル目の昇温過程において450K~600Kの範囲でMgの水素化、MgとCuの合金化によるMg2Cuの生成、Mg2Cuの水素化に伴うなだらかな発熱ピークが出現する。次に、670 K付近のMg2Cu系の水素放出の吸熱ピーク(3MgH2 + MgCu2 -> 2Mg2Cu + 3H2)と720 K付近のMgH2単体の水素放出ピークの順に続く。降温過程では、690 K付近にMgH2単体の水素吸蔵と620 K付近にMg2Cu系の水素吸蔵の発熱ピークが現れる。DSC 1サイクル目のMg2Cu系の水素放出ピークに対してMgH2単体の水素放出ピークがある程度以上の大きさの場合、DSC 2サイクル目以降のMg2Cu系の水素放出ピークにダブルピーク現れることが解った。DSC 3サイクル後の水素吸蔵状態の微細組織は、MgH2 + MgCu2の網目状組織のドメインの中心部にMgCu2塊が共存する組織であった。DSC 1サイクル目の昇温時にMgH2単体の水素放出ピークが大きい場合は、Mgの水素化に伴うMg消費量が多いためMg2Cuの生成は抑えられCuが残留する。Mg2Cu系の水素放出後に再生成したMg2Cuと残留したCuが反応してMgCu2塊を形成し、Mg2Cuドメインの中にMgCu2塊が存在する組織になると考えられる。ダブルピークが見られる物はこのMgCu2塊が大きく、見られない物は小さかったことから、水素放出時におけるMgCu2塊と周りのMgH2との反応がMg2Cu系の水素放出のダブルピークの発生原因と推論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までの研究で以下の事が解った。繰り返し圧延20回の場合、圧延前のMg箔の酸洗浄の有無でMg2Cuの成長の活性化エネルギーと頻度因子に顕著な差が見られない。それは、酸洗浄無しでも繰り返し圧延によりMg表面のMgO膜が破断し、MgOの間からMg2Cuが成長し、Mg2Cuの成長の阻害が系全体の合金化に大きな影響を与えないためと考えられる。また、繰り返し圧延10、20、30回では、Mg2Cuの成長の活性化エネルギーと頻度因子に有意な差が見られないが、初期水素化特性は繰り返し圧延10回と20回以上では大きく異なる。繰り返し圧延回数の増加と共に組織が微細化し、As-rolledのMg層の厚みが薄くなるが、Mg2Cu成長の活性化エネルギーが同程度なので同温度・同時間でMg2Cuが同程度成長する。したがって、圧延回数10回の場合は水素化開始時にMgの残留量が多くMgの水素化が主体となる。一方、圧延回数20回以上の場合はMgの残留量が少なく、Mg2Cuの水素化が主となる。そのため、圧延回数により初期水素化特性が異なることになる。今年度は、DSCプロファイルにおけるMg2Cu系の水素放出ピークの形状と微細組織の関係について調べた。水素吸蔵状態の微細組織は、MgH2 + MgCu2の網目状組織のドメインの中心部にMgCu2塊が共存する組織である。網目状組織の水素放出反応が670 K付近の低温側のピークであり、MgCu2塊と周りのMgH2との反応が690 K付近の高温側のピークであると推論した。MgCu2塊の大きさと数がダブルピークの出現に関係していると思われる。MgCu2塊の大きさは昇温時のMgの水素化量と関係しており、Mgの水素化量はMg層の厚さと関係している。水素吸蔵・放出反応をMg2Cu単独の物とするにはas-rolledで微細な組織を作ることが肝要である事が解った。
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Strategy for Future Research Activity |
Mg/Cu系 今までの研究から昇温過程における競合反応が起こる温度域が解り、水素吸蔵・放出過程における組織形成メカニズムを推定できる様になった。その結果、競合反応を極力減らし反応を単純化するためには、層の厚みを極力薄くする微細化が肝要であることが解った。今年度は、圧延前の焼鈍、酸洗浄など組織の微細化に有効と思われる前処理を行った試料に対し、50 K程度の温度間隔で反応を停止させ、初期水素化過程における昇温中の組織変化を詳細に追い、組織形成過程の実体を把握することを試みる。 Mg/Al系 水素吸蔵・放出反応にとって重要な熱伝導性の向上やMg層の厚さ減少、水素吸蔵・放出による微粉化の抑制を狙ってMg/Al超積層体を作製した。MgとAlは比較的低温で金属間化合物を作ると思われるが、合金化させずにMg単独での水素吸蔵・放出を最終目標とする。水素吸蔵・放出特性を知るためにDSC測定を行った所、DSC1サイクル目では昇温中700 K以下で発熱・吸熱ピークは非常に小さかった。昇温中740 K付近に大きな吸熱ピークがあり、降温中710 K付近の大きな発熱ピークとそれに続く650 K付近のなだらかな発熱ピークがあった。700 K以上でMgとAlの融解・凝固により金属間化合物が生成し、それが650 K付近で水素吸蔵したと思われる。今後は、Mgのみが水素吸蔵する水素化条件を探索する。
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Causes of Carryover |
本年度は、予定したより電子顕微鏡使用回数が少なく課金が少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、詳細な解析を実行するため電子顕微鏡観察回数を増やす予定である。
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