2016 Fiscal Year Research-status Report
精錬スラグはどこまで低塩基度化できるか? -脱リン限界能の評価と反応パスの解析-
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15K06524
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長谷川 将克 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (40335203)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 低塩基度スラグ / 状態図 / 活量 / リン分配比 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、石灰石CaOを用いて溶鉄中の不純物であるリンを除去するプロセスにおいて、固体CaOの有効利用とスラグ発生量の低減を目標とし、CaO濃度が低い低塩基度スラグの熱力学的性質を明らかにする。充分な脱リン能を維持しながら精錬スラグをどこまで低塩基度化できるかを検討するため、テーマ1:「脱リンスラグの低塩基度域における相平衡関係の解明」、テーマ2:「スラグ中のP2O5活量とFeO活量の測定と脱リン性能の熱力学的評価」、テーマ3:「固体CaOの有効利用に向けた最適な脱リン反応パスの検討」について、実験を行う。 テーマ1について、CaO-SiO2-P2O5-FeO四元系において、実操業に近い組成域であるCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体と液相の二相共存領域を調査した。スラグを鉄るつぼに納めてアルゴンガス雰囲気下で1573Kに加熱し、液体窒素を用いて急冷した。電子プローブマイクロアナリシスによる組成分析結果より、スラグ中のP2O5が固相に濃化する程度を示す固相/液相間分配比を算出し、平成27年度の成果および文献値と合わせて整理した。固相/液相間分配比と四元系の相平衡関係が矛盾しないことを示した。 テーマ2について、平成27年度にテーマ1で明らかにしたSiO2、CaSiO3、Ca3P2O8三固相共存領域でのP2O5活量を測定した。H2+H2O混合ガス雰囲気下でスラグとCu-P合金を平衡させた。最も塩基度が低い組成域ではP2O5活量は非常に高く、脱リンが不可能であることが判明した。また先のテーマ1で得られたCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体、液相の二相共存領域におけるFeOとP2O5活量の同時測定を行った。スラグをCu-Fe-P合金と平衡させ、平衡酸素分圧を測定した。実験結果より脱リン反応進行の程度を示すスラグ/溶鉄間の分配比を算出し、脱リンスラグの塩基度との関係を整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「脱リンスラグの低塩基度組成域における相平衡関係の解明」と「スラグ中のP2O5活量とFeO活量の測定と脱リン性能の熱力学的評価」について、平成27、28年度はほぼ計画通りに研究が進んだ。平成28年度は、学会発表と学術論文誌ISIJ Internationalへの投稿(2件)を行った。なお投稿した論文は現在査読中のため、研究発表の項には記載していない。 「相平衡関係の解明」について、平成28年度は、より実操業に近い組成域であるCaO-SiO2-P2O5-FeO四元系のCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体、液相の二相共存領域を対象とした。本研究課題の成果を実操業の解析に活用することを考え、四面体空間となる四元系の相平衡関係を二次元平面に投影する方法を考案した。これはスラグ中のイオン形態を考慮した方法であり、この方法を用いて平成28年度までの本研究課題の成果と文献値を平面図上で比較・検討することに成功した。 また「活量測定」について、極低H2O分圧を制御する実験ガス経路を改善し、SiO2、CaSiO3、Ca3P2O8三固相共存スラグでのP2O5活量を測定した。このスラグは最も塩基度が低い組成域であるが、P2O5活量は非常に高いため、脱リンの工業的要請を満たさないことが判明した。これはスラグの低塩基度化には下限が存在することを示すものであり、低塩基度化の限界を探るという本研究課題の目的に向けて、大きな成果であると言える。また、P2O5活量とFeO活量の同時測定についても、平成27年度は学術的考察に対して重要な組成域、平成28年度は実操業に近い組成域であるCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体、液相の二相共存領域について実施した。実験結果より脱リン反応進行の程度を示すスラグ/溶鉄間の分配比を求め、文献値と合わせて分配比と脱リンスラグの塩基度との関係を整理することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
テーマ1「脱リンスラグの低塩基度域における相平衡関係の解明」とテーマ2「スラグ中のP2O5活量とFeO活量の測定と脱リン性能の熱力学的評価」については、平成27、28年度までで申請時に予定していた実験をおおむね順調に進行させることができたと考える。これまで実験対象としたスラグ系は、合金元素を多くは含まない普通鋼の脱リンに用いられるCaO-SiO2-P2O5-FeO系であった。そこで平成29年度は、これまでの普通鋼用脱リンスラグの実験データを実操業で用いられる組成域においてさらに充実されるとともに、ステンレス鋼に代表されるようなCrを含有する高合金鋼の脱リンに用いられるスラグ系に実験対象を拡張する予定である。溶銑温度域でのCaO-SiO2-Cr2O3系スラグの相平衡関係の解明とCr2O3活量の測定を計画している。 また、本研究課題の最終年度となる平成29年度は、テーマ3「固体CaOの有効利用に向けた最適な脱リン反応パスの検討」について実験を行う。低塩基度脱リンスラグを実プロセスにおいて作り込むためには、造滓材がどのような速度、反応パスで溶解していくかを明らかにする必要がある。石灰を基本成分とした造滓材の溶解速度を測定し、平成28年度までに得られた活量データから算出される熱力学的な駆動力との関係を検討したいと考える。また、反応パスについては、平成28年度に考案した「スラグ中のイオン形態を考慮して四面体空間となる四元系の相平衡関係を二次元平面に投影する方法」を用いて考察する予定である。
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Causes of Carryover |
「脱リンスラグの低塩基度域における相平衡関係の解明」と「スラグ中のP2O5活量とFeO活量の測定と脱リン性能の熱力学的評価」において、実験の対象とする系の拡張を考えたため、次年度使用額が生じた。具体的には、「今後の推進方策」で述べたとおり、平成27、28年度まで対象とした普通鋼用の脱リンスラグであるCaO-SiO2-P2O5-FeO系に加え、平成29年度はCrを含有する高合金鋼用の脱リンスラグについても実験系を拡張するとととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Crを含有する高合金鋼用の脱リンスラグにはCr2O3が含まれるが、Crの価数を+3価に固定するために実験ガス雰囲気中の酸素分圧を制御する必要がある。生じた次年度使用額により、この酸素分圧の制御に必要なマスフローコントローラ(ガス流量を制御する機器)と標準ガスを購入する予定である。その他、平成29年度分として請求した助成金については、使用計画に変更はない。
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