2016 Fiscal Year Research-status Report
酸性質を制御したゼオライトと金属化合物の複合による多機能性固体触媒の開発
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15K06570
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
今井 裕之 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (70514610)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 酸性質 / ゼオライト / 脂肪酸エステル / 水素化脱酸素 / 植物油 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、特異的な固体酸性を持つゼオライトを水素活性化能を持つ金属触媒と複合することで、新たな触媒機能を有する固体触媒の開発を目的とする。本年度は前年度に引き続き、ゼオライトの酸性質(酸量、酸強度、酸の種類)が触媒性能に及ぼす影響を検討するため、まず、前年度に合成を行った金属とゼオライトの複合触媒を、脂肪酸エステルよりも構造の複雑な植物油の水素化脱酸素反応へ応用して触媒性能の評価を行った。また、構造および酸性質が異なるゼオライトの合成の検討を行った。 構造が異なるゼオライトにNiとMoを複合させた触媒を用いて、低水素圧条件下での菜種油の水素化脱酸素反応を行ったところ、金属と酸化アルミニウムの従来の複合触媒よりも低温で反応が進行した。一方で、ゼオライトの構造や酸強度の違いによる反応活性や生成物の種類への影響はほとんど見られなかった。生成物としては、菜種油の脂肪酸部分が水素化された炭化水素がほとんどであり、その他に分解で生成した炭化水素が多数種含まれていた。また、反応温度を上昇させることで、反応活性が著しく向上したが、分解生成物の割合の顕著な増加も見られた。通常、菜種油からはディーゼル油留分が生成されるが、本触媒では分解も進行することから、ジェット燃料またはガソリン留分への直接変換および燃料留分の作り分けを可能にする。 ゼオライトの合成では、弱い酸性質と大きな細孔径を持つSAPO-5の合成を検討した。合成に使用する有機アンモニウム化合物やアミンを複数種組み合わせ、さらに組合せを変えることで、構造を変えずに粒子形態を様々に変化させられることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度において、Ni-Moとゼオライトの複合触媒が脂肪酸エステルの水素化脱酸素反応に高い反応活性を持つこと、酸性質が生成物分布に大きく影響を及ぼすことを見出した。これらを踏まえ、本年度はNi-Moとゼオライトの複合触媒を用いて、構造のより複雑な植物油(菜種油)の水素化脱酸素反応を行った。比較の対象としたゼオライトはアルミノシリケートで、ゼオライト構造および酸量の違いによる触媒性能への影響を比較検討した。この検討において、反応活性、生成物分布のそれぞれに強く作用するゼオライトの因子を見出すことができた。脂肪酸エステルの水素化脱酸素で得られた結果と比較することで、植物油の水素化脱酸素反応における反応挙動・反応機構および植物油への触媒作用の解明の端緒が見出せた。一方で、菜種油から得られる生成物の種類が多く、また生成物の種類は反応条件により大きく異なることから、分析条件の最適化に時間を要し、データ数の蓄積が十分には至らなかった。 SAPO-5の合成では、合成条件の探索の中で、結晶成長と有機化合物の相関を表す結果が得られた。相関に関する内容は金属とゼオライトの複合触媒の開発には直接的な関与は小さいが、ゼオライト合成研究における予定外の有意な結果を得ることができた。 以上より、全体的に概ね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において、植物油の水素化脱酸素反応における反応活性および生成物分布とゼオライトが持つ構造、酸強度、酸量との関連性が見出された。これらの結果を踏まえて、金属と複合する化合物の酸性質の各要素(量、種類、強度)に着目し、エステル化合物の水素化脱酸素反応における触媒性能との相関関係を詳細に検討し、反応機構の解明に繋げる。特に炭素-炭素結合および炭素-酸素結合の開裂に着目して、反応ルートへの酸性質の各要素の作用を検討する。また、エステル化合物中の不飽和結合や脂肪酸部分の鎖長の触媒反応活性や生成物分布への影響を検討し、酸性質の作用と化合物の物性との相関関係の解明に繋げる。また、酸性質の反応基質への作用をより詳細に解析するため、各種分光法を用いた測定を行う。 これまでのゼオライトの酸性質の比較では、構造の異なるゼオライトを用いることで酸強度の比較を行っており、構造の違いによる細孔径や粒子サイズ、比表面積等にも差異が生じていた。ゼオライト中の含有金属種を変えることで、同一構造で酸強度や酸の種類を変化させたゼオライトの合成を検討する。物性の違いをできるだけ排除した上で水素化脱酸素反応に用いることで、酸性質と触媒性能のより緻密な相関を得られると考えられる。
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Causes of Carryover |
本年度では脂肪酸エステルからより反応が起こりにくい植物油(菜種油)に反応原料を変えて触媒性能評価を行った。反応を実施したところ、目詰まりの発生と流通装置全体の回復、目詰まりの発生を抑制した条件下での安定的な反応進行のための反応条件の検討、得られた生成物の分析条件の最適化に予想以上に時間を要してしまった。このため、助成金の使用にも当初予定からずれが生じ、特に、研究進展のための大型物品のスペックや内容の再検討が必要となり、購入計画を変更したことが大きく影響した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の成果を踏まえた実施計画を進めていくため、まず、ゼオライト合成の検討ならびに金属と複合した触媒の触媒性能評価のための使用を予定している。また、触媒の物性評価および反応機構の解明のため、分析用の大型装置の購入を予定しているが、研究進展のために適した仕様・性能を有する装置を選定する必要がある。
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Research Products
(6 results)