2015 Fiscal Year Research-status Report
炭化水素系高分子における放射線化学初期過程と放射線分解の研究
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15K06668
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 孝文 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50336765)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射線化学 / ナノファブリケーション / 高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、放射線により高分子構造のどの炭素間結合が切断しやすいかの基礎的な知見を得るために、ナノ秒およびフェムト秒電子線パルスラジオリシス装置を用いて、異なった分子構造のアルカンの放射線化学初期過程と分解過程の研究を行った。分岐アルカン、環状アルカン、立体アルカンの代表的なモデル化合物として、2,3-ジメチルブタン、イソオクタン、シクロヘキサン、アダマンタン等を選定し電子線パルスラジオリシス測定を行った。ナノ秒電子線パルスラジオリシスを用いた場合に、ドデカンでは種々の活性種が容易に観測されるにも関わらず、2,3-ジメチルブタン、イソオクタン、シクロヘキサンでは、アルキルラジカル以外の初期活性種の過渡吸収は観測限界であった。また、カチオン生成溶媒中でアダマンタンラジカルカチオンの観測を試みたが、アダマンタン由来の過渡吸収を特定することができなかった。フェムト秒電子線パルスラジオリシスを用いてイソオクタンを測定した結果、5 mO.D.程度の非常に小さな過渡吸収を観測できた。プローブ分子としてビフェニルを加えた場合、ドデカンとほぼ同程度のビフェニル活性種が生成したことから、イソオクタン中でもドデカンと同程度初期活性種が生成したと考えられるが、イソオクタン中のジェミネートイオン再結合が非常に速く、時間分解能内でほとんどが減衰したと考えられる。アダマンタン-ドデカン溶液をフェムト秒パルスラジオリシスで測定した結果、ドデカンラジカルカチオンが減少しアダマンタンと反応した事が分かった。しかしながら、アダマンタンラジカルカチオンの過渡吸収は観測できなかった。実際に利用されている非化学増幅型レジストの一つであるZEPを測定した結果、THF溶液中で溶媒和電子と反応すること、直接イオン化によりダイマーラジカルカチオンを生成し、CT錯体を形成する事が分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、高分子構造のどの炭素結合が切断しやすいかの基礎的な知見を得るために、異なった分子構造のアルカン、分岐アルカン、環状アルカン、立体アルカンのモデル化合物として、2,3-ジメチルブタン、イソオクタン、シクロヘキサン、アダマンタンの放射線化学初期過程と分解過程の解明を目指して研究を行った。ナノ秒パルスラジオリシスを用いて、紫外-可視-近赤外領域で過渡吸収スペクトルを測定し、フェムト秒パルスラジオリシスで高時間分解能測定を行った。フォトカソードRF電子銃加速器の移設に伴った認可の関係から、平成27年度前期はナノ秒パルスラジオリシス実験しかできなかった。2,3-ジメチルブタン、イソオクタン、シクロヘキサン中では、電子の移動度が高いためにジェミネートイオン再結合が非常に速く、その結果、ナノ秒領域では電子、ラジカルカチオン、励起状態等の注目している活性種の過渡吸収スペクトルが得られず、フェムト秒パルスラジオリシスでは吸光度を得るために10 mmの光路長を取った結果、過渡吸収は観測できたが、時間分解能は十分とは言えなかった。一方、実際に産業利用されている非化学増幅型レジストの一つであるZEPが、THF溶液中で溶媒和電子と反応すること、直接イオン化によるので吸光度は非常に小さいがダイマーラジカルカチオンを生成すること、CT錯体を形成する事が分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
パルス圧縮した100fsの電子パルスと、短光路長の試料セルを用いてフェムト秒パルスラジオリシス実験を行い、異なった分子構造のアルカンの放射線化学初期過程と分解過程の測定を引き続き行う。H28年度は、高分子固体や薄膜の電子線パルスラジオリシスを行う事が主要な目的であるので、①スピンコート多層膜を作成して試料とし、②電子線パルスラジオリシスで反射分光法を行う。それぞれに課題があり、多層膜試料の作成では、何層重ねられるのか、光学的に良質な多層膜が得られるのかが課題である。試料を光が透過すれば光吸収を測定し、透過しなければ反射を測定する。電子線パルスラジオリシスでは、光路長が短いという通常の薄膜測定の問題と、活性種濃度が小さい事が2重の問題である。これは高エネルギー電子線が非選択的なイオン化を誘起するためで、濃度は電子線のパラメータと試料でほぼ決まる。吸収分光法では、多数回反射により光路長を長くするようなレンコンのような石英基盤を作成し、穴の中に高分子薄膜を作成するような試料や、基盤に乗せた薄膜試料を近接して配置してその間にビームを照射するような測定配置等を検討している。反射分光法では、多層膜からの反射光を集める集光光学系を検討している。また、固体や薄膜試料の場合に照射効果の蓄積の問題があるので、過渡吸収の信号を捉えた次の段階として、回転ステージと1軸ステージを組み合わせた試料ステージを構築し、試料の場所を変えることで照射効果蓄積を低減する。
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Causes of Carryover |
100円以下の端数であるため、無理に調整はせず、次年度での使用とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品として、試薬・化学薬品、試料調整用のガラス器具、パルスラジオリシス測定のための光学部品、光学部品マウントを購入する。特に、試料中の電子と光の速度差による時間分解能劣化を低減するために、短光路長の試料セルを購入する。多層膜試料を作成するための基盤として、4インチ石英ウェハとSiウェハを購入する。反射分光光学系のための光学部品、光学部品マウントを購入する。高分子薄膜やレジスト薄膜は、共同設備のスピンコーターを利用して作成する。成果の論文投稿費、英文校閲費、国内・国際会議での成果発表の旅費として使用する。
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