2016 Fiscal Year Research-status Report
薄型シリコン太陽電池の高効率化に向けた高速・高精度な形状最適設計システムの開発
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15K06683
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高橋 徹 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90360578)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 形状最適化 / 太陽電池 / 表面プラズモン / 周期境界値問題 / 境界要素法 |
Outline of Annual Research Achievements |
■具体的内容:研究実施計画に則して、薄型シリコン太陽電池の形状最適化のための計算システムの構築を行い、形状最適化シミュレーションを実施した。研究実施計画の段階で実施予定であったパラメータ最適化を包含する形で、Bスプラインで描いた形状(多層構造内の境界)を柔軟に最適化するための手法を構築した。最適化の過程では境界値問題を解くためのソルバーが必要であるが、本研究が注目したアイソジオメトリック境界要素法は、高精度である事に加えて、形状の変更が容易であること、形状微分の計算に必要な境界接線微分の評価が容易であるというメリットがあることを明らかにした。一方で、研究実施計画の時点で危惧した形状の大きな変化(境界要素が大きくなり過ぎる等)に伴う解析精度の低下については、アダプティブメッシュで対応することとしたが、境界が大きく変化すると自己交差(捻れ)と言った変形が根本的に問題となるため、基本的には境界の変化が小さい範囲で最適化を行う(場合によっては拘束条件を陽に与える)ように留意して対応した。薄型シリコン太陽電池のシミュレーションにおいては、シリコン厚さ100μm程度の四層構造モデルを設定し、形状最適化によってエネルギー吸収率の向上を確認した。 ■意義・重要性:アイソジオメトリック境界要素法に基づいた形状最適化問題へのアプローチは、構造解析(応力解析)の分野では先行研究があるものの、本研究が対象とする波動問題、特にその周期境界値問題に注目した研究は他に類を見ず、計算工学的な観点から意義深い。また、本計算システムを利用して現実的な薄型シリコン太陽電池の高効率化を示唆する結果を得た。これは工学的・応用物理学的に重要な成果と言える。ただし、その拡張を含めて、H29年度もシミュレーションを継続する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度は、シリコン太陽電池が入射される太陽光を効率的に閉じ込める(したがって、発電効率が高まる)ことができるような最適形状システムの開発を行い、そのシミュレーションを行った。具体的には、まず、金属表面に表面プラズモンを励起し得るTM波に注目して、2次元1周期層状構造体の形状最適設計問題を、随伴法を用いて定式化した。続いて、汎用の非線形計画問題用のソフトウェアであるIpoptを利用して、H27年度に開発したアイソジオメトリック境界要素法を主問題および随伴問題のソルバーとして組み込むことによって、シリコン層におけるエネルギー吸収率を最大化することを目的とした最適化システムのプロトタイプを構築した。このシステムを用いて、空気/シリコン/銀/空気から成る四層モデルを対象として、シリコン/銀の境界形状の最適化を行った。その際、多数のシミュレーション結果も勘案して、現実の設計に密接する3種のパラメータ(入射角度θ、入射波長λ、周期長さL)を合理的に決定するためのスキームについても検討した。結果として得られた最適形状では、初期形状(平面)と比べて、吸収率が向上し得ることを確認した。さらに、より現実的に重要な太陽光スペクトルによる重み付けを行った吸収率も、入射波長を含む一定の帯域において、向上し得ることを確認した。 一方、H27年度に引き続き、H28年度においても3次元解析を実現するための基礎的研究を行った。具体的には、3次元2周期境界値問題に対するアイソジオメトリック境界要素法の構築に関数研究を行った。また、反復法をベースとする一般の境界要素法の高速化技法として、逆高速多重極法に基づく前処理法の開発を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度であるH29年度は、(1)H28年度までの研究の高度化、(2)その総括を中心的に行う。さらに、(3)後継研究の基礎を築く。より具体的には以下の通りである: ■(1)研究の高度化:特定の単一波長ではなく、太陽光スペクトルを元より勘案して形状最適化を行うことである。太陽光スペクトル、すなわち波長の比率(分布)は既知であるため、当該の最適化はH28年度に構築したシステムを拡張すれば実行可能である。ただし、最適化の各ステップにおいて所定の帯域の波長(数値計算上は離散化した多数の波長)を扱うことになるため、計算時間は増大する。現在のシミュレーションの律速となっているのは境界要素法を実行する部分であり、その中でも、収束判定を必要とする周期グリーン関数の評価である。その評価には種々の計算手法が知られているが、それらを精査した上で、より高速(かつ高精度)な評価手法を採用することで計算量の問題を緩和する。また、理想的には零から無限大である帯域を実際には有限とする必要があるが、その帯域の選択についても検討する。 ■(2)研究の総括:(1)に述べた薄型シリコン太陽電池の高効率化に向けた数値シミュレーションを実施し、その工学的・応用物理学的な研究成果をハイライトした論文を執筆する。一方で、H28年度に構築した最適化システムについても学術的な価値は高いと思われ、その詳細を論文とする。 ■(3)研究の発展:本研究を3次元問題に拡張することを目標として、研究当初年度より本研究の一部として研究(特に境界要素法の高度化)を試みており、着実な成果を挙げている。H29年度もこれを継続する。具体的には、より柔軟な形状表現を可能とするBスプラインあるいはNURBS曲面の亜種に着眼して、それらを用いたアイソジオメトリック境界要素法の構築を検討する。
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Causes of Carryover |
研究代表者が行える範囲の業務であると判断し、計算サーバーの管理および研究補助を目的として計上した人件費・謝金の支出を控えたことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度は研究の総括と言う位置づけており、各種学会における研究発表および論文作成(校閲等)に関わる直接的な費用に加え、これらに付随するデータ整理等の人件費として使用する予定である。
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Remarks |
平成28年11月2日に高大連携の一環として愛知県立豊田西高等学校に講師として赴き、本研究についても講義した。
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Research Products
(8 results)