2016 Fiscal Year Research-status Report
ストレス負荷時の恐怖記憶制御における扁桃体グルココルチコイド受容体の機能解明
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15K06705
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
井上 蘭 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 助教 (70401817)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グルココルチコイド受容体 / cue依存的恐怖記憶 / ストレス / メタ可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
非常に強いストレスを伴う恐怖体験後に発症するPTSDが現在、精神保健的ならびに社会的な問題となっている。PTSDでは、恐怖体験に関連した音や匂いなどの感覚刺激(cue)に対する過剰な恐怖記憶が病態形成に重要とされているが、そのメカニズムは十分に解明されていない。 生体にストレスが加わると副腎皮質からグルココルチコイドが分泌され、脳内のグルココルチコイド受容体(GR)が活性化され、恐怖記憶の制御に重要な役割を果たす。扁桃体外側核(LA)はcue依存的恐怖記憶の形成に必要不可欠な脳部位であることから、我々はLA選択的GRノックアウト(LAGRKO)マウスを作製し、ストレス負荷後の恐怖記憶制御におけるLAGRの機能を解析した。マウスに拘束ストレスを与え、1時間後に音依存的恐怖条件付けを行い、翌日、記憶のテストを行った。コントロールマウスでは拘束ストレスを与えると音に対する恐怖記憶が有意に低下したが、LAGRKOマウスでは変化が認められなかった。過去のストレス経験は、学習・記憶の細胞レベルのメカニズムとされるシナプス可塑性の起こりやすさ、すなわちメタ可塑性に影響を与えることが報告されている。この知見から、コントロールマウスではストレス負荷後、シナプス伝達の長期増強(LTP)が誘導されにくいが、LAGRKOマウスではLTPが誘導されると考えられる。この仮説を検証するため、LAに音の情報を入力する聴覚皮質と内側膝状体にチャネルロドプシンを発現するアデノ随伴ウィルスベクターを注入し、3週間後投射線維の末端を青光で刺激し、LAで人為的にLTPを誘導した。コントロールマウスではLTP誘導により恐怖記憶が増強したが、LAGRKOマウスでは変化が認められなかった。この結果から、ストレス負荷後のLAのメタ可塑性誘導ならびに恐怖記憶の抑制にLAGRが重要な役割を果たすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
直近のストレス経験によるcue依存的恐怖記憶の抑制にLAGRが重要な役割を果たすことを行動レベルで明らかにした。ストレス負荷後のLAニューロンにおけるシナプス伝達効率の変化を調べるため、当初in vitroの電気生理学実験を計画したが、光遺伝学手法に変更し、ストレス負荷後のLAのメタ可塑性誘導にLAGRが関わることを示唆する結果を得ることができた。よって、概ね予定とおり研究は進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ストレス負荷後のLAのメタ可塑性誘導におけるLAGRの役割をin vivo電気生理学手法にてさらに詳しく解析する。また、LAのメタ可塑性誘導と形成される恐怖記憶の強さとの因果関係を光遺伝学的手法にて明らかにする。
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Causes of Carryover |
In vitro電気生理学的実験を行うための旅費に40万円を請求したが、光遺伝学的実験とin vivoの電気生理学的実験に変更した。これらの実験は本学で行うため旅費の支出が減少した。また、動物飼育費用は4月に請求されるため、その分を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は論文発表を予定しており、論文校正ならびに投稿費用として使用する。また、光遺伝学的実験とin vivoの電気生理学的実験用の消耗品購入の支出が多くなると考えられる。
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Research Products
(2 results)