2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K06775
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
斎藤 祐見子 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (00215568)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | G蛋白質 / 構造活性相関 / 摂食 / うつ不安 / 一次繊毛 |
Outline of Annual Research Achievements |
GPCRに属するMCHR1は摂食・情動に関与する極めて興味深い分子である。本年度は2つの成果を得た。①MCHR1活性の抑制因子RGS8が中枢選択的に過剰発現するトランスジェニックマウス (RGS8tg)を作製した。RGS8蛋白質量は、RGS8tgの海馬CA1領域において顕著な発現上昇が認められた。次に、このマウスを用いて5種類のうつ不安様行動試験を実施したところ、強制水泳試験(FST)において、無動時間がRGS8tgにおいて野生型と比較して有意に減少した。さらに、MCHR1拮抗薬を投与したFSTの結果から、RGS8tgの抗うつ様行動はMCHR1シグナル伝達の抑制を介する可能性が示された。加えて、既存の抗うつ薬desipramineを投与したFSTからは、RGS8tgの示す抗うつ行動の作用機序が、desipramineの持つ「ノルアドレナリン再取り込み阻害作用」とは異なる経路であることを示唆する結果を得た。以上より、RGS8tgで認められた抗うつ様行動は、CA1領域のMCHR1シグナル抑制が関与すると考えられる。②MCHR1は神経細胞1次繊毛に局在する。そこで、モデル細胞hRPE1を用いて1次繊毛という場におけるMCHR1の機能を調べたところ、MCHは効果的な1次繊毛縮退を引き起こすことを見出した (EC50=0.49 nM)。次に、1次繊毛の縮退に関与するシグナルについて生化学的・薬理学的な検討を行った結果、MCHR1を介したGi/o依存的なAktリン酸化が繊毛縮退初期における鍵となることを明らかにした。加えて、モータータンパク質Kif3AのsiRNA実験から、MCHR1を介したAkt経路は1次繊毛縮退において選択的に機能するシステムである可能性を示した。この成果は、1次繊毛という「場」におけるGPCRの機能及び摂食・情動のメカニズム解明に新しい視点を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MCHR1結合分子RGS8tgの行動薬理学実験はH27年とH28年の2年間に渡って行う予定だったが、昨年度中に達成することができた。現在、論文執筆中であり、2016年以内に受理を目指す。また、1次繊毛という特殊な場におけるMCHR1の新規機能について、これまで他のGPCR系では未報告だった繊毛縮退という新しい現象を見出し、縮退初期におけるシグナル解析を含めた論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
より緻密なMCHR1構造活性相関の解析を目指す一方、「特徴あるMCHR1シグナリング系」として、1次繊毛膜に局在するMCHR1システムを見出した。そこで、本年度はこの2つについて研究を推進する予定である。① インターナリゼーション(int)に関与するアミノ酸部位の決定:GPCRのintは受容体シグナルによって活性化されたキナーゼによる受容体リン酸化が引き金となると言われている。申請者らは以前、MCHR1細胞内C末端3残基がベータアレスチン依存的にintに関与することを示した。しかしながら、それは部分的関与であるため、 細胞内第2・第3ループの予測リン酸化部位を様々に組み合わせた置換体を作成する。そして、MCH添加後に培養細胞膜に残存する受容体量の定量(FACSもしくはELISAによる受容体N末tag量の計測)及び免疫蛍光染色により解析する。また、実際にMCHR1がMCH添加によりリン酸化を受けるという報告はない。そこで、Phostag法を行ない、実際のリン酸化程度とその時間経過について検討する。② 1次繊毛上のMCHR1の生理的意義の解析:1次繊毛という場におけるMCHR1の特異なセンシング機構の本体についてはゲノム編集を活用して追求する。1次繊毛上のMCHR1の生理的意義についての実験は海馬スライス培養系を立ち上げ、さらに、MCHR1を特異的に認識する抗体により、免疫組織染色で海馬・側座核などの1次繊毛にMCHR1が局在する条件を確立した。そこで、1次繊毛におけるMCHR1動態が摂食状態によりダイナミックに対応して変動するかを脳領域ごとに詳細に解析することを予定している。
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Causes of Carryover |
2016年度に実施予定の実験費用を概算したところ、配分予定の120万円を大きく超えることが明らかとなった。そのため、次年度使用額分35万525円を2016年度と合算する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
合算した予算は、高価な海馬スライス培養用特殊膜(30回分で6万円)、各種選択的阻害剤(1つで3-8万円)及び抗体(1つで6-10万円)を購入する予定である。また、高騰している英文校閲費用も計上したい。
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Research Products
(17 results)