2016 Fiscal Year Research-status Report
ランビエ絞輪に局在するグルタミン酸受容体による活動電位伝播制御
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15K06788
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
廣野 守俊 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (30318836)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 活動電位 / ランビエ絞輪 / 軸索側枝 / 細胞外マトリックス / 小脳 / チャネル |
Outline of Annual Research Achievements |
活動電位の迅速な伝播は脳神経の情報処理に不可欠である。有髄神経では活動電位はランビエ絞輪を介する跳躍伝導によって神経終末へ伝わるが、活動電位が忠実性を保ちながら伝播するためのランビエ絞輪におけるチャネルやその他の分子構成については不明な点が多い。また運動学習にかかわる小脳プルキンエ細胞(PC)は高頻度に発火して小脳核(DCN)ニューロンの興奮を制御するものの、その軸索側枝の標的ニューロンの小脳皮質神経回路網における役割は分かっていない。本年度の研究ではランビエ絞輪に発現する分子の同定だけでなく、その分布に寄与すると考えられる細胞外マトリックスによる神経伝達制御機構と、PC軸索側枝の標的ニューロンの活動電位発火修飾機構を明らかにすることを試みた。 細胞外マトリックスは主にコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)によって形成される。マウスDCNに発現するCSPGをその分解酵素であるコンドロイチナーゼABC(ChABC)で分解消去したところ、DCNニューロンから記録される抑制性シナプス後電流の振幅が増大し、paired-pulse ratioが小さくなった。この結果はPC軸索終末からのGABA放出確率が上昇したことを示唆する。さらにChABCを中位核に注入したマウスに瞬目反射条件付けを行うとその学習効率が上昇する傾向が観察された。これはCSPGは新規の学習形成を阻害する傾向があるものと推測される。 PCの軸索側枝はグロビュラー細胞に出力する。PCからの強い抑制によりグロビュラー細胞のセロトニンやノルアドレナリンによる発火応答が制御されていることが分かった。またこれらモノアミンの作用は小脳皮質回路網を介して最終的にPCの発火頻度を調整することを明らかにした。さらにPCの高頻度発火がパルス波やステップ波といった脱分極の長さに応じて位相応答性を有することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ランビエ絞輪近傍(パラノード)におけるカルシウム依存性カリウムチャネル(BKチャネル)の活性化にはランビエ絞輪付近のカルシウム濃度上昇が必要であるが、その供給源は不明であった。T型カルシウムチャネルの寄与を確かめるためにニッケル以外の阻害剤ML218を逆行性活動電位を記録しながら局所投与したところ、高頻度刺激下での活動電位の欠失頻度(failure rate)が上昇した。ゆえにT型カルシウムチャネルの寄与が確定した。 逆行性活動電位を記録するにはAMPA型受容体を阻害することが必要であるため、この方法ではパラノードでのAMPA型受容体の役割を調べるのは困難であった。そこでNMDA型受容体の関与についてこのアゴニストやアンタゴニストを局所投与しながら逆行性活動電位を記録している。さらに1型の代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR1)の寄与も考慮されるため、このアゴニストやアンタゴニストを使用した同様な実験を進めている。mGluR1活性化以降のシグナル伝達の関与を調べるため細胞内カルシウムストアーの枯渇剤やTRPC3チャネルの阻害剤を局所投与しながら逆行性活動電位への影響を検証している。 これまで逆行性活動電位を活動電位伝播の指標としてきたが、逆行性活動電位を安定して測定できる確率はあまり高くはない。またより生理的な活動電位伝播を測定するため、順行性の活動電位をPC軸索から軸索パッチにより記録することを試している。軸索を認識しやすくするためにGFPを発現させるアデノ随伴ウイルスベクターを購入し、このウイルスをマウス小脳に注入して一部のプルキンエ細胞だけがGFPラベルされた小脳を作製している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度はコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)のシナプス伝達に対する修飾作用を調べてきたが、ランビエ絞輪に発現するCSPGの生理学的意義を調べるために逆行性活動電位を記録しながらコンドロイチナーゼABC(ChABC)をランビエ絞輪付近に局所投与して活動電位伝播への影響を調べる予定である。また小脳切片の電気生理学的実験結果と瞬目反射条件付けの結果の整合性を検証するため、ChABCを中位核に注入したマウスから小脳切片を作製し、小脳核ニューロンから抑制性シナプス後電流を記録して注入されたChABCの作用を明らかにする。 これまで逆行性活動電位を活動電位伝播の指標としてきたが、より生理的な活動電位を測定するため順行性活動電位をプルキンエ細胞の軸索から軸索パッチにより記録する。具体的にはGFPを発現させるアデノ随伴ウイルスベクターをマウス小脳に注入して一部のプルキンエ細胞がGFPラベルされた小脳を作製し、可視化されたプルキンエ細胞の軸索にcell-attached記録法を用いて順行性活動電位を記録する。順行性の活動電位を記録しながら、NMDA受容体やmGluR1のそれぞれのアゴニストやアンタゴニストを軸索部位に局所投与して、活動電位伝播への作用を明らかにする。
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Research Products
(3 results)