2017 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー代謝ネットワークの鍵分子USP2の役割解析
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15K06805
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Research Institution | Rakuno Gakuen University |
Principal Investigator |
北村 浩 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (80312403)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エネルギー代謝 / マクロファージ / ユビキチン / 視床下部 / サイトカイン / 酸化的リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)前年度までに作成したUsp2をゲノム編集で欠損させたUsp2ノックアウト培養白色脂肪細胞は、分化刺激を加えると正常に分化マーカーを発現し、分化の異常は認められなかった。従ってUSP2は白色脂肪細胞の分化には関わらないことが分かった。 2)前年度のスクリーニングで、USP2ノックダウンマクロファージで転写活性が変わる複数の転写因子を見出した。その中にはOctamer binding protein (Oct)ファミリーが含まれていたが、中でもOct1とOct2はマクロファージで発現量が多かった。いずれもUSP2の減少により、核内タンパク質量が減少した。さらにOct-1/2は、USP2による強い制御を受ける10のサイトカインのうち、9つの遺伝子のプロモーターに結合した。これら領域においては、USP2が欠損するとOct2に対するOct1の比率は高まった。Oct1のK63ポリユビキチン化はUSP2により直接制御されており、USP2欠損時にはこのユビキチン鎖によるタンパク質-タンパク質相互作用を介して、サイトカインの発現が上昇すると考えられた。 3)よりUsp2 mRNAに対して感度、特異性、定量性の高いin situハイブリダイゼーション法を開発し、マウス視床下部について調べた。Usp2 mRNAの量は、弓状核では前年度認めたPOMCニューロンよりむしろNPY発現ニューロンで顕著だった。一方でタモキシフェン依存的に脳神経選択的にUsp2遺伝子を欠損するマウスを作製した。 4)Usp2を欠損させた骨格筋の培養細胞で酸化的リン酸化に関わる分子の発現が低下し、ATPの産生が抑制された。このATP産生能の低下は未分化の状態から認められた。 5)タモキシフェン誘導型骨格筋選択的Usp2ノックアウトマウスが作成できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主にマクロファージを用いた機能メカニズムの評価は当初の予定通り進行したが、エネルギー代謝に関わる各臓器選択的な遺伝子改変モデルマウスは当初の予定以上に交配に時間がかかり作製するにとどまった。従って、”やや遅れている”と判断した。しかしながら、遅れた時間の間に、ノックアウトマウスからの分離細胞を用いた検討は進めることができたので一定の成果は得られたと考える。 1)マクロファージの遺伝子発現制御については、Oct-1/2を直接的な分子標的とすることを明らかにし、実際にこれらのタンパク質の量比の変化が、USP2により増減するサイトカインの発現を調節する可能性を示せた。即ち、マクロファージにおけるUSP2の遺伝子発現制御の分子メカニズムの一端が明らかとなった。 2)視床下部については、過去3年の検討の中で解析感度や特異性、定量性の向上により、食欲制御に直結するニューロンで、エネルギー状態の変化に伴い、USP2の発現が変化することが確定的となった。またタモキシフェン依存的に脳神経でUsp2を欠損するモデルマウスの作成を終えたが、その表現型解析には至らなかった。 3)骨格筋については、Usp2ノックアウトマウスからの分離骨格筋細胞やノックアウト細胞株でエネルギー代謝の変化を捉えられたが、影響が出たエネルギー代謝の過程を決めるまでには至らなかった。また、成熟骨格筋選択的なノックアウトマウスを作製したが、表現型解析には至れなかった。 4)脂肪細胞については、マクロファージ-脂肪細胞-骨格筋軸におけるマクロファージのUSP2の標的細胞として示したが、脂肪細胞自身が発現するUSP2については現在個体・細胞レベルでの役割は依然明確でないままである。
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Strategy for Future Research Activity |
1)本年度見出した成熟筋細胞および未分化筋細胞でのATP産生の不全の原因となる反応やそれを担う酵素を明らかにする。一方でUsp2遺伝子の欠損がインスリン応答性に与える影響をインスリンシグナル分子(インスリン受容体、IRS1、Akt、mTOR)のリン酸化の程度や糖の取り込みで評価する。一方で本年度に作出した骨格筋選択的Usp2ノックアウトマウスの食欲や体重増加に与える影響を調べることで、個体レベルでも骨格筋USP2の役割を調べる。 2)高解像・高定量性in situハイブリダイゼーションと免疫蛍光染色を駆使し、低血糖時にUSP2の発現が変わる細胞とそれらが発現する神経伝達物質を視床下部のみならず脳全体でも評価する。これまでの報告からUSP2がミトコンドリア分子との関係が示唆されていることから、Usp2ノックアウトマウスの視床下部神経におけるミトコンドリアの形態を蛍光顕微鏡下で評価する。 3)タモキシフェン誘導型神経選択的Usp2ノックアウトマウスにタモキシフェンを投与したときの血糖値やインスリン濃度、交感神経活動を評価し、コントロールマウスと比較することで、神経系のUSP2のエネルギー代謝制御における役割を調べる。 4)Usp2ノックアウト脂肪細胞におけるインスリン応答性をホルモン感受性リパーゼの活性や糖の取り込み、インスリンシグナル分子のリン酸化等で評価する。 5)Usp2ノックアウトマウスのその他の臓器における、エネルギー代謝異常に起因すると思われる変化を通常餌および高脂肪餌給餌の条件下で調べる。
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Causes of Carryover |
1)理由としては、研究課題の根幹となるツールである組換えマウスの繁殖効率が当初の予定より低かった。これにより交配に時間がかかり、必要なマウスを得るのに時間を要した。ようやくマウスは得られたが、当初の計画通りマウスの表現型を解析するには追加の研究期間が必要となった。一方、その間に進めたUsp2ノックアウト細胞を用いた機能解析や、脳における詳細な発現解析が当初の計画より進んだ成果をもたらしたことから、これらを基に一定の結論を導くのに追加の実験が必要となった。 2)使用計画としては、マウスの維持に関する消耗品(餌、床敷等)、抗体類、培地、qRT-PCRのための酵素ミックスなど追加で行う実験に使用する物品購入に充てることを想定している。
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