2015 Fiscal Year Research-status Report
マウス・ラットに対する実践的かつ動物愛護に配慮した吸入麻酔法の開発
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15K06813
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今野 兼次郎 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (30323348)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マウス / ラット / 吸入麻酔 / 気管挿管 / 動物愛護 / マスク麻酔 / 外科処置 / 疾患モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
麻酔は実験動物に多大なる影響を及ぼすと共に,動物実験のデータをも左右する.従って,その適正な使用は必要不可欠である.また,動物実験は本来,ヒトへの外挿を想定している.従って,実験動物に対する麻酔も,出来るだけヒトに準じた処置を施す事が望ましいと考えられる. しかし,実際にはヒトと実験動物への麻酔法は大きく掛け離れているのが現状である.そこで本研究では,ヒトや小動物の臨床において一般に用いられている全身麻酔の1つである気管挿管を施して人工呼吸器を用いた吸入麻酔を,出来るだけ簡便かつ確実,そして実践的な方法を開発する事を目的とした. これまで,マウスおよびラットなどの実験動物への気管挿管法に関しては,それらの動物に3種混合麻酔薬を前投薬として投与する事で,内視鏡技術を応用した「TESALA」を用いて安全かつ簡便に気管挿管する方法を開発し,既に報告した(Konno et al. 2014a, b).これらの実験において,麻酔時間の経過と共に,SpO2などの重要な因子が時間の経過と共に少しずつ悪化していく可能性も確認された. そこで,平成27年度は,この点をより詳細に確認するために「ソムノスイート低流量マウス・ラット用麻酔システム(MAS)」を購入し,まずはラットに対して使用を試みた.従来通り,MouseOXPlusを用いて,動脈血酸素飽和度(SpO2),などのバイタルサインを計測すると共に,MASを用いて実験小動物の麻酔時における呼吸数,1回換気量,回路内圧など,呼吸器系の生体情報も測定し,これまでの気管挿管ならびに吸入麻酔を多角的に再評価した.その結果,キャリアガスとして空気を用いた場合,麻酔時間の経過と共に,SpO2が低下していく事が示唆された.しかしながら,MASは1分間あたりの呼吸回数や回路内圧の上限,Peep機能なども有しており,それらの機能を有効活用する事で,一層安全な吸入麻酔法が得られる事も示唆されている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現職に移籍した事により,動物実験施設の運営が業務として加わっただけでなく,新棟建設の準備も重なった.それらの影響で実験系の立ち上げに時間を要したり,一時的に実験が滞ってしまう事はあったが,現時点では実験が軌道に乗り,その遅れを取り戻しつつある.ただし,デスクワークに時間を取られ,学会発表や論文作成など,研究成果の情報発信まで手が回らなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から,マウスやラットに安全かつ安全に気管挿管を施す方法は、ほぼ確立出来た。しかしながら、気管挿管を施す事と、その後に人工呼吸器を用いて安定した吸入麻酔を施す事は別である。そこで昨年度は、ソムノスイート低流量マウス・ラット用麻酔システム(MAS)を導入し,1分間あたりの呼吸回数や回路内圧の上限および下限,Peep機能などを詳細に調節すると共に,経時的な数値変化を記録していった.その結果,非常に安定したバイタルサインの経時的変化が得られ,人工呼吸器を適切に調節する事で実験動物が安定した麻酔状態を得られる事が明らかとなった.しかしながら,これらの機械的な調節にも限界がある事も示唆された.特に,SpO2値が時間の経過と共に低下していく事が明らかとなった.また,MASから得られた呼吸器系のデータから,1分間あたりの呼吸量や1回あたりの呼吸量の低下が,麻酔時間の経過と共に低下していく事も確認され,SpO2値の経時的変化が呼吸器系による換気能の低下に起因する事が示唆された.これまでの実験から,麻酔中のSpO2低下が動物が麻酔から覚醒するまでの時間や循環器や呼吸系の機能回復に影響する事が示唆されている,そこで今後は,キャリアガスの酸素分圧を適切に調節する事で,換気能低下を補う事が可能であるか検討する必要性が示唆された. また,現在,普及している吸入麻酔はマスク麻酔であり,この方法は麻酔処置を施すための知識や経験をあまり必要としないが,換気を自発呼吸に依存しており,気道確保が出来ていないために,麻酔中に呼吸が停止あるいは減弱し,実験中に突然死する恐れがある.MASは,人工呼吸器としてだけでなく,マスク麻酔にも使用出来る.この特性を生かし,今年度はマスク麻酔と気管挿管を施して人工呼吸器を用いた吸入麻酔の比較実験を行い,それぞれの長所と短所を明らかにし,目的に応じた最適な麻酔法を選択出来る様にする.
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Causes of Carryover |
現職に移籍した事により,動物実験施設の運営が業務として加わっただけでなく,新棟建設の準備も重なった.それらの影響で実験系の立ち上げに時間を要したり,一時的に実験が滞ってしまう事はあり,特に動物飼育の確保などの時間を要したため,予定よりも実験動物の使用頭数が少なくなってしまった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新しい環境での実験が軌道に乗り,その遅れを取り戻しつつある.動物飼育スペースが確保出来た事もあり,予定以上に実験を遂行出来る環境が整った.今年度は,マウスおよびラットの様々な系統を用いて実験を進めていく予定で,繰り越した金額は主にそれらの動物購入に充てる予定である.
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