2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K06822
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
栗山 正 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30398226)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞接着 / 遠隔転移 / 集団移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞生物学研究や発生生物学の研究を介して方向性のある長距離の細胞移動に対して集団的細胞遊走の優位性が示されるようになってきた。しかしながら、がんの転移・浸潤においては集団的細胞遊走は血管などの狭窄部を通る際にデメリットになると考えられてきたことから否定的に扱われている。問題点として生体内の細胞移動をモニタする安価で簡便な方法が無いことと、集団的細胞移動中の細胞が狭窄部でどのように振る舞うかが不明なことが挙げられる。そこでがんの遠隔転移における集団的細胞遊走の優位性、ひいては細胞接着の遠隔転移に対する影響を探索することを目的とした。 これまでの研究においてN-cadherinという細胞間接着因子が集団的細胞遊走のカギとなる役割を果たすことが示唆された。これを踏まえ、N-cadherin発現細胞株の中から143Bヒト骨肉腫細胞株という高い転移能を持つ細胞株を調べた。がん細胞を心臓に注射し、全身に転移させる実験をおこなったが副腎にのみ転移巣ができるという意外な結果になった。長時間飼育を行うと遠隔転移する細胞がごく少量だけ出てくることが分かったのでその細胞を回収し、繰り返し注射することで効率よく転移する細胞を得た。それぞれの臓器・器官に転移する細胞同士を比較すると遺伝子発現がかなり異なっていることが分かった。そしてN-cadherinの発現はやはり上昇している傾向が見られた。接着分子の変化をもたらした細胞内の変化に注目し、遠隔転移特異的な細胞機構に迫る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
がんの遠隔転移にかかる細胞接着の影響を調べた。まず高転移骨肉腫細胞株143Bの生体内の挙動をモニタするために143BにmCherry (赤色蛍光タンパク)とルシフェラーゼ遺伝子を同時に発現するカセットを挿入し、株化した。この細胞をヌードマウス(免疫不全マウス:ヒトの細胞が生着する)の心臓に注射したところ、すべて副腎に転移するという結果を得た。この結果は若干想定外であったが、表現形が安定しているため、この細胞株を元にさらに転移する細胞株を探すことにした。副腎転移は14日目程度で観察される。このマウスを28日を超えて飼育すると遠位の骨転移が認められ、さらに他の内臓にも転移することが分かった。他の部位に転移した細胞を手術で摘出し、各摘出部の細胞接着分子カドヘリンの発現を定量的PCRで調べた。すると遠位の転移巣で特定のカドヘリン分子の発現が増加していた。さらに摘出した転移巣から初代培養を行い、上記のカセットを導入する際に用いた抗生物質を用いて143B+mCher/luc2細胞由来のがん細胞のみを単離した。単離した細胞を別々のマウスの心臓に注入し、似た場所に転移する細胞のみを回収した。これを5回繰り返したところ14日目には副腎転移を伴わずに直接遠隔転移する細胞株が数種類得られた。この細胞におけるカドヘリンのプロファイルを調べたところ、元は同じ細胞であったにも関わらず、あるカドヘリンは増加し、他のカドヘリンが減少するなど複雑な変化が定着していることが示唆された。このカドヘリンの変化を引き起こした細胞内の変化を担う分子を調べるために細胞内シグナリングに注目し、各細胞株からリン酸化タンパクを抽出し比較した。細胞の生存にかかるAktのリン酸化は強調されており、他にも特異的なチロシンリン酸化バンドやセリン・スレオニンのリン酸化特異的なタンパクが存在することも認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
各遠隔転移株のタンパク質を抽出し、電気泳動した。そのうち特に目立った変化や共通の変化を持つもののタンパク質バンドを切り出し質量分析を行い、タンパク質を同定する。リン酸化に起こる変化でスクリーニングを行ったため、同定した分子から上流のシグナルを類推し、細胞接着変化や転移の頻度などへの影響を調べる。 カドヘリン分子のノックダウン株をいくつか作成し、転移巣の変化を調べたが劇的な変化を起こさなかった。この細胞を転移巣から回収しカドヘリンプロファイルを調べたところ、似たカテゴリーに属するカドヘリンが上昇しており重複した遺伝子によるレスキュー効果によって表現形が曖昧になっていた可能性がある。複数ノックダウンしてもきりがないので過剰発現やタンパク分解に関係する配列を改変したカドヘリンを過剰発現した細胞を作成し、強制的に細胞集団を作らせた場合の遠隔転移能にどのような変化が起こるかを調べる。 In vitroのアッセイ系の構築も進めているが、他のがん細胞のようにコラーゲンゲルの浸潤アッセイを行うと143B骨肉腫の場合はゲルがもろくなりすぐに浸潤してしまう。骨の合わせた強度のゲルを用いるなどして定量的な浸潤能の解析を行う。
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Causes of Carryover |
当初の予定では遺伝子改変株を多数作成する予定であったが、先に2年目3年目に予定されていたタンパク質の同定を行い、遺伝子改変は必要最低限のものに限る事とした。それにより試薬代として計上していた使用予定額が少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
タンパク質を同定するために質量分析の受託解析を利用する。1検体につき6万円かかるので前年度の繰越額を充当する。
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