2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K06825
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
関本 隆志 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (20436322)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 発がん性複製ストレス / Y-familyポリメラーゼ / Polymerase η / c-Myc / MUS81-EME2 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん遺伝子の活性化などの発がんシグナルによるゲノム複製の過剰な活性化は、ヌクレオチド不足や転写・複製装置の衝突、酸化ストレスなどを原因とするDNA損傷を引き起こし、複製フォークを停止させる(発がん性複製ストレス)。その結果、ヌクレアーゼの異常な活性化などにより起こるDNA二重鎖切断がゲノム不安定性を介して腫瘍形成を促進すると提唱されている。一方、発がん性複製ストレスは細胞死、細胞老化を誘導し腫瘍抑制にも働くことが報告されている。そのため、これら発がんシグナルが引き起こす複製ストレスやそれに対する応答機構を明らかにすることは、発がん課程を解明し、がんの新規予防・治療法の開発に繋がることが期待されるが、その本態や分子機構は不明な点が多い。 我々はこれまで、紫外線や薬剤に対する複製ストレス応答機構の研究実績を背景として、発がん性複製ストレスの解明に取り組み、主要な複製異常である「DNA再複製」にY-familyポリメラーゼ(Y-Pol)が関与することを見いだした(Mol Cell Biol, 2015)。また、近年は発がん遺伝子c-Myc、Cyclin Eが誘導する複製ストレスを、Y-Polの一員であるPolymerase η(Polη)が抑制することをみいだした。本研究では、この作用を分子レベルで解明することを目的として研究をおこなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試薬処理によりc-Myc活性化を誘導できるモデル細胞系において、c-Mycによる複製ストレスにおけるPolηの役割を解析し、以下の様な結果を得た。(1) Polηの発現抑制はc-MycによるG2アレスト、アポトーシスを増強した。(2) BrdU標識で表される複製フォークと共局在するPolηの核内フォーカスが増加し、c-Mycによる複製ストレス部位にPolηが集積した。(3)c-Myc活性化で誘導されるリン酸化ヒストンH2AX(γH2AX)(DNA二重鎖切断(DSB)マーカー)がPolη発現抑制により増加し、また、Polηのポリメラーゼ活性変異体(ドミナントネガティブ変異体)はそのγH2AXフォーカスを顕著に増加させ、そのフォ-カスと共局在した。(4)DNA fiber法によりDNA複製をモニターすると、c-Myc活性化で見られる複製速度低下や複製フォークの停止が、Polη発現抑制により増加した。以上の結果はc-Mycによる発がん性複製ストレスの解消にPolηが関与していることを示唆している。 さらに、Polη発現抑制、およびc-Myc活性化時に、DSBを誘導するstructure-specific nuclease, MUS81-EME2,を同定した。興味深いことに、このヌクレアーゼとPolηの発現抑制は、c-Mycによる複製ストレスと細胞死を顕著に誘導し、Mus81-EME2がc-Mycによる複製ストレスに対するfail-safeに働くことが示唆される。これらのことは、c-Mycがん遺伝子によって誘導されるがん細胞に対して、PolηとMUS81-EME2の阻害がsynthetic sick/lethalに働き、新規がん治療に繋がる可能性が考えられる。 以上の結果をまとめ、現在、論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
c-Myc誘導性複製ストレスにおけるPolηの働きについては、種々のPolη変異体、Polη欠損細胞などを用いて、より詳細な解析を進める。また、Polηは複製忠実度が低く、点突然変異の発生に関与することが報告されている。c-Mycによる複製ストレスの解消にPolηが関与することは、点突然変異を亢進させ腫瘍の発生、悪性化を促進すると考えられる。そこで、点突然変異率を測定する実験系を確立し、この仮説を検証する。 Rad51, WRNなど相同組換え修復を介して複製ストレスの解消に関与する種々のタンパクのがん遺伝子誘導性複製ストレスにおける動態、機能を検証し、この複製ストレス応答機構をより詳細に解析する。また、これらの働きに対するPolηの関与を検証する。
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