2016 Fiscal Year Research-status Report
DNA複製異常とゲノム不安定性におけるY-familyポリメラーゼの作用
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15K06826
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
山下 孝之 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (10166671)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 複製ストレス / DNAポリメラーゼeta / 損傷乗り越えDNA合成 / エンドヌクレアーゼ / MUS81 / 複製フォーク |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノム情報の維持にはDNAの円滑な複製が必須である。しかし、環境因子や代謝産物によるDNA損傷など様々な要因が、複製フォーク進行の遅延や停止を引き起こす。これらは「複製ストレス」と総称され、細胞はこれらに応答する何重もの機構を備えている。一方、腫瘍細胞においては活性化がん遺伝子などが引き起こす複製ストレスが高まり、腫瘍細胞の増殖には有害な効果を及ぼす。そのため、複製ストレス応答機構は腫瘍細胞の増殖を促進し、治療標的となりうる。たとえば、複製ストレス応答において中心的分子のひとつであるATRの阻害剤は、腫瘍選択的に殺細胞効果を示し臨床治験が進行中である。Yファミリー損傷乗り越えDNAポリメラーゼ(Y-Pol)も複製ストレス応答において重要な役割を果たすが、発がん遺伝子誘導性複製ストレスにおける役割はほとんど研究されていない。我々はMyc発がん遺伝子を薬剤誘導性に活性化する細胞を作成し、Y-Polの役割を検討した。その結果、Polηの発現抑制がMyc活性化による複製フォークの停止、DNA二重鎖切断(DSB)の形成、細胞死や細胞周期停止を特異的に促進することを見出した。また、Polηドミナント・ネガティブ変異体の発現がDNA二重鎖切断の形成を引き起こした。さらに、Polη抑制時のDSB形成はエンドヌクレアーゼMUS81-EME2に依存していた。MUS81-EME2を同時に抑制すると複製ストレスの増加と細胞死の促進が見られた。これは、従来の報告と合致して、MUS81-EME2によるDSB形成が複製再開を促進し、Polηのバックアップとして作用することを示唆する。以上の知見は、Polηが腫瘍細胞の生存を支持する可能性や、先天的Polη欠損による色素性乾皮症ヴァリアント型に発生する皮膚ガン治療においてMUS81-EME2が治療標的になる可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
MUS81-EME2の作用機構というやや副次的な課題への取り組みに予想以上に労力と時間を消費せざるを得なかった。特に、複製フォーク再開への効果を検出することが困難であったため、実験を繰り返す必要があった。しかし、この副産物的所見からは新しいsynthetic lethalityを利用する治療法の可能性を提示するという収穫も得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
Myc発がん遺伝子で見出した知見が、その他のがん遺伝子でも見られるのかどうか?他の損傷乗り越えDNAポリメラーゼの関与はどうなのか?他の複製フォーク再開経路との相互作用はどうなのか?Polη欠損腫瘍においてMUS81-EME2が治療標的になりうるのか?という疑問を解決したい。
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