2016 Fiscal Year Research-status Report
ウイルスRNAの侵入を防御する宿主NMDとHTLV-1 RNAを守るRexの攻防
Project/Area Number |
15K06827
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 和民 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (60549591)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 俊樹 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 教授 (30182934)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | HTLV-1 / ATL / ウイルス発癌 / NMD / RNA核外輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト・レトロウィルスHuman T-cell Leukemia Virus Type-I(HTLV-1)は、ヒトT細胞に感染後速やかにヒトゲノムに組み込まれ、宿主細胞の転写・翻訳機構を利用して自己複製行う。その後長い潜伏期間に新たな分子異常が蓄積し、感染細胞は極めて悪性度の高い末梢血T細胞腫瘍Adult T-cell Leukemia/Lymphoma(ATLL)細胞へと変化していく。ATL発症予防法を確立する上でATL発症機構を解明することが必須であるが、感染細胞の腫瘍化のトリガーとして、我々は感染初期のウイルス複製の現場に注目してきた。 HTLV-1は感染直後の10日間ほどの間に活発にウイルス複製を行い、その後潜伏する。その間HTLV-1のRNA結合タンパク質RexはウイルスmRNAの核外輸送効率を制御し、複製と潜伏のタイミングを調節していると考えられている。我々は潜伏までの短期間で効率よくウイルス複製を行うため、Rexが宿主細胞内の環境整備を行っていると予想している。その一面としてRexが主細胞のmRNA品質管理機構Nonsense-Mediated mRNA Decay(NMD)を抑制し、ウイルスRNAを安定化していることを報告した。しかしRexによるNMD抑制の分子機構はまだ分かっていない。さらにRexが不安定なウイルスmRNAを速やかに核外へ運搬し、選択的に翻訳系に運び込むため、スプライシングや細胞周期制御など、様々な細胞内経路にも関わっていると考えられるが、未だ検討されていない。そこで本研究では(1)RexによるNMD抑制の分子機構を明らかにすること、(2)ウイルス複製を有利にするためのRexによる感染細胞内環境整備の全体像を把握することを目的に実験を行ってきた。下記に記すように実験計画書に従って、概ね計画通りに研究が進行していることを報告する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)RexによるNMD抑制の分子機構: NMDはmRNAスプライシングや翻訳機構と共役する複雑な機構であり、Rexがどのように抑制しているのか分かっていない。NMDはmRNA上でのUPF1-UPF2-UPF3B complex形成により活性化するが、UPF3BがUPF3Aに置き換わるとNMD活性が低下する。我々はH27年度にNMD を制御するタンパク質群とRexの相互作用を検討し、RexはUPF3Bとは結合するがUPF3Aと結合しないことを見出した。そこでH28年度はGST-UPF2と共沈してくるUPF3BとUPF3Aの量をRexの有無によって比較した。するとRex存在下でUPF2と結合するUPF3B量が低下し、UPF3A量が増加した。よってRexがUPF3Bと結合するためUPF1-UPF2-UPF3A complexが形成されやすくなりNMD活性が低下する可能性が示唆された。 (2)Rexによる宿主細胞内環境整備機構の解明:HTLV-1 mRNAはスプライシングを受けず翻訳されるのか、そのメカニズムはまだ解明されていない。我々はRexがウイルスmRNA運搬の過程で様々な細胞内経路に関わり、ウイルスmRNAにとって不都合なプロセスを回避していると考え、その全体像を捉えるためRexのinteractome解析を試みた。H27年度はRexに特異的に結合するヒト・タンパク質81個を同定した。H28年度はIngenuity Pathway Analysis (IPA)softwareを用いてこの81個のタンパク質の機能解析とpathway解析を行った。その結果Rexは転写、スプライシング、mRNA代謝、翻訳など様々な経路のタンパク質群と相互作用し、特に核内多機能タンパク質として注目されているNonOとの結合により、その機能の幅を広げている可能性が示された。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)RexによるNMD抑制の分子機構:H28年度の実験で、NMDの正常な活性化に必要なUPF1-UPF2-UPF3B complexの形成において、RexがUPF3Bと結合するためUPF1-UPF2-UPF3Aが作られやすくなり、NMD活性が低下することが示唆された。そこでH29年度はまずUPF3B, UPF2, Rex間の競合実験により、Rexとの結合によってUPF3BがUPF2に結合できなくなっていることを検証する。さらにRexによるUPF1-UPF2-UPF3内のUPF3BとUPF3Aの置き換わりがNMD抑制の原因になっていることを、UPF3BのノックダウンとNMD活性レポーターアッセイにより検証する。 (2)Rexによる宿主細胞内環境整備機構の解明:Rex interactome解析の結果、Rexは遺伝子の転写制御、スプライシング、RNA代謝、翻訳などの調節に関わる様々な細胞内タンパク質と相互作用していることが分かった。我々は特に遺伝子発現制御上の様々な役割を担うNonOとの相互作用に注目している。そこでH29年度はNonOノックダウン系を構築し、NonOとの相互作用を介したRexの細胞内経路への影響を明らかにする。またRexがスプライシングにどのような影響を与えるか、Rexによるスプライシング・パターンの変化とスプライシング・ファクターとの相互作用の関係を明らかにする。さらに、Rexは多くのリボソーム・タンパク質と相互作用することから、細胞内リボソームをショ糖密度勾配法によってポリソーム(翻訳活性化状態)とモノソーム(翻訳非活性化状態)に分けるポリソーム解析をRexの有無で比較し、Rexが翻訳活性与える影響を検討する。
|
Research Products
(5 results)