2015 Fiscal Year Research-status Report
腫瘍深部イメージングによる腫瘍内不均一性の評価とDDS動態制御
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15K06871
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Research Institution | Kawasaki Institute of Industrial Promotion Innovation Center of NanoMedicine |
Principal Investigator |
藤 加珠子 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター), その他部局等, 研究員 (90342732)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドラッグデリバリーシステム / 腫瘍深部イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍は遺伝子レベル・細胞レベル・組織レベルで不均一な細胞集団であり、その不均一性ががん治療の限界をもたらしている。特に血管から離れた低酸素領域では薬剤が到達しにくく、放射線療法の効果も低いため再発の原因となっている。本研究では多光子共焦点顕微鏡を用いた腫瘍の深部イメージングを行い、様々なドラッグデリバリーシステム(DDSキャリア)や臨床で用いられている抗癌剤などについて、腫瘍深部の低酸素部位による薬物到達度の評価を行い、表層部位との分布様式の違いを明確にし、効果的なDDSキャリアの開発を目指すことを目的とした。 平成27年度では、まず深部イメージングの技術を確立した。具体的には深部イメージングに最適な固定器具の開発、最適な蛍光試薬の探索を行った。また、腫瘍の長時間安定に固定するため、Dorsal skinfold chamberを用いた。腫瘍の表面から近い部分と遠い部分では光の到達具合が違うので、蛍光強度による定量比較が難しい。その解決策として深さ(Z)方向による蛍光強度の減衰を補正する。最も簡便な方法として撮影する段階で顕微鏡ソフトに標準装備されているZ intensity correction機能を用いた。しかし、この機能を用いて長時間測定した場合、乾燥などに理由によりZ方向でズレが生じた場合、薬剤の腫瘍集積を過大もしくは過小評価するおそれがあるため、Z方向のズレを極力抑える必要がある。また解像度の高い水浸レンズで長時間測定を行うのに適した固定器具を試作・検討した。 癌の種類によって血管密度が異なることが知られている。比較的血管の多い大腸がん細胞や卵巣がん細胞、血管密度が低く間質の多いすい臓がん細胞などを用いて腫瘍型による違いはもちろん、表層・深部における血管構造の違いを調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度では、(1)深部イメージングの技術を確立する、(2)癌の種類による血管分布等の違いや低酸素領域の分布などを調べることを予定していた。 (1)については、固定器具の試作・検討した。また、様々な蛍光色素(Rhodamine, FITC, Cy色素, Qtracker, Alexa色素)を用いて検討した。その結果、深部イメージングの技術を確立することができた。 (2)については多種の腫瘍についてイメージングを行い、血管分布の違いなどを比較した。また、膵臓癌細胞を同所移植しがん幹細胞マーカーの一つであるNanog抗体を用いてがん幹細胞を標識して、多光子顕微鏡でイメージングを行った。その結果、がん幹細胞のイメージングは成功したが、尾静脈から投与したDDSキャリアは腫瘍表面の血管には多く見られるもののNanogで標識される近辺には分布していないことがわかった。今後はデリバリーシステムを改良する必要があることがわかった。 東京大学からiCONMへの二光子顕微鏡の移転に伴い実験が中断したため、当初の計画がやや遅れ気味であり、腫瘍組織中の低酸素領域の分布を検討までは行えていない。しかし、平成28年度以降に計画していたがんの深部に存在すると考えられるがん幹細胞を可視化が実現されたため、今後の実験は予定通りに進めることが出来ると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降では前年度で確立した技術を用いて、臨床で使われている抗がん剤や研究室で作成した様々なキャリアの腫瘍深部への薬剤到達度などを比較し、最適なキャリアの構造を検討する。また、それらの構造を元に腫瘍深部に効果的なキャリアを作成し、治療効果を調べる予定である。 当研究室で開発中のナノキャリアや既に臨床で使用されている抗がん剤を投与し、腫瘍への集積分布の経時観察を行う。Dorsal skin fold chamberを用い10時間以上の連続観察や複数日の腫瘍観察を同一マウスで行う。申請者が所属する研究室では高分子ミセルを中心として様々なナノキャリアが開発されており、PEG密度、粒径、親-疎水性構造、リガンドの種類、架橋度など条件を変えて検討することができる。 がん幹細胞への薬物集積を評価する。前年度の成果によってがん幹細胞が可視化できるようになったが、がん幹細胞への薬剤集積は確認されていない。低酸素領域において静止期にあるがん幹細胞は薬物耐性を示すことは知られている(Tateishi et al., Cancer Cell (2013))。この解決方法として、静止期維持因子抑制剤を投与することにより静止期から追い出し、抗がん剤感受性を高めることにより薬物取り込みを強化する。あるいは、抗癌剤排出機構の一つであるABCトランスポーターの過剰発現と抑制する薬剤やsiRNAを投与するなどの処置を行う。
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Causes of Carryover |
東京大学からiCONMへの二光子顕微鏡の移転に伴い実験が中断したため、当初の計画がやや遅れており、それに伴い実験に使用する予定のマウスや物品の購入を遅らせた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については二光子顕微鏡の移転に伴う実験中断により、見合わせていたマウスや物品の購入をする。計画の遅れは深刻なものではなく、次年度に予定していた実験は計画通り行うために翌年度分として請求した助成金を使用する。
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