2015 Fiscal Year Research-status Report
肺癌治療におけるEGFR-TKI耐性克服にむけた代謝経路を標的とする治療法の開発
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15K06893
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Research Institution | Shizuoka Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
芹澤 昌邦 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 主任研究員 (00569915)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
楠原 正俊 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (40169991)
高橋 利明 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (50507415)
解良 恭一 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (40400783)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | がん代謝標的療法 / 肺腺癌 / EGFR-TKI / 耐性 / オシメルチニブ / メタボローム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、非小細胞肺癌治療におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI)耐性の克服を目指し、代謝経路を標的とした新規治療法の開発を目的としている。 本年度末承認された第3世代EGFR-TKIオシメルチニブは、肺腺癌治療の新たな治療選択肢として注目されている。この薬剤は、T790M二次的遺伝子変異に起因する第1、第2世代のEGFR-TKI治療への耐性を示す症例に対し、良好な治療効果(奏効率61%、PFS中央値9.6ヵ月)を示す。また、EGFR変異陽性非小細胞肺癌症例に対する1次治療としての使用も検討されており、第1、第2世代のEGFR-TKIよりも高い有効性(奏効率77%、PFS中央値19か月以上)が示されている。そこで、EGFR-TKI耐性の克服を目指し代謝経路を標的とした新規治療法を開発するうえで、1次治療としてEGFR変異陽性非小細胞肺癌症例に対しオシメルチニブを使用した際に生じることが予想される耐性の機序の検討およびその克服にむけた治療法の開発が今後必要になると判断し、基礎検討を行うためのオシメルチニブ耐性細胞株の作成を行った。EGFR-TKI感受性を示すHCC827細胞株を、オシメルチニブに段階的に濃度を上げながら長期間暴露し耐性細胞株を樹立した(HCC827OSR)。HCC827OSRは、オシメルチニブだけでなく第1世代EGFR-TKIのエルロチニブおよび第2世代のアファチニブに対しても耐性を示した。また、HCC827細胞株をエルロチニブへ長期暴露することにより樹立したエルロチニブ耐性細胞株(HCC827ER)も、HCC827OSR細胞株と同様に3種類のEGFR-TKI対し耐性を示した。両細胞株は、EGFR-TKIへの感受性は同等であるが、細胞の形態、増殖速度に違いが認められ、暴露した薬剤の違いが生物学的特性に影響を与えている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
肺腺癌治療における第3世代EGFR-TKIオシメルチニブの臨床開発が大きく進展し、本年度中に承認される可能性が高まったことから、オシメルチニブへの耐性の機序について、代謝という観点からの検討と、その結果に基づく代謝経路を標的とした治療法の開発を本研究課題の主軸として進めることにした。そこで、基礎検討に用いるオシメルチニブ耐性細胞株の樹立を始めたが、暴露濃度を短期間に上げることができず、想定以上に時間を要した。これは、オシメルチニブの増殖抑制作用が第1、第2世代のEGFR-TKIよりも強いことが影響したと考えられる。また、樹立したオシメルチニブ耐性細胞株について、CE-MS(キャピラリー電気泳動質量分析法)によるメタボローム解析を行い、代謝依存性の解明を行う予定であった。しかし、経年劣化による故障のため、残念ながらCE-MSを稼働させることができず、本年度中にとりかかることができなかった。次年度、メタボローム解析機器の更新を行い、より網羅的な代謝物質の検出が可能となるので、両細胞株の代謝依存性の検討を行うことで標的とする代謝経路を選定し、そしてその代謝経路の特異的阻害による増殖抑制効果について検討を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、オシメルチニブに耐性を示すHCC827OSRおよびHCC827ER細胞株の生物学的特性を、親株であるHCC827細胞株をコントロールとしたマルチオミクス解析により明らかにする。それにより、治療標的になる可能性がある代謝経路、そしてその代謝経路に関連する遺伝子を同定する。 メタボローム解析による両細胞株の代謝依存性の解明(耐性化に伴い亢進した代謝経路の同定)に加えて、その原因となる塩基配列レベル、転写レベルでの変化を、次世代シーケンサーを用いた全エキソンシーケンシングおよびDNAマイクロアレーを用いた全遺伝子発現解析により明らかにする。次に、耐性化に伴い亢進した代謝経路を標的とする薬剤の評価をMTTアッセイまたはコロニー形成試験により行い、耐性細胞株特異的な増殖抑制効果を示す代謝阻害薬、またはEGFR-TKIと併用処理することにより耐性細胞株のEGFR-TKIへの感受性を回復させる代謝阻害薬を選択する。そして、その観察された増殖抑制効果が、選択した薬剤の標的代謝反応に対する作用による結果であるか評価を行う。
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Causes of Carryover |
オシメルチニブ耐性細胞の樹立に時間を要したため、分子生物学的検討および臨床検体を用いた検討は次年度以降に行う研究計画に変更した。そのため、次年度の研究費の配分を増やす変更を行った。また、CE-MSの故障により、メタボローム解析は次年度に行うことになったので、メタボローム解析用の消耗品費を繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
オミクス解析(メタボローム解析、全エキソンシーケンシング、DNAマイクロアレー解析)および分子生物学的検討に必要な試薬、機器類の購入に使用すると共に、臨床検体を用いた研究に必要な抗体など免疫染色に必要な試薬類の購入を行う。また、成果発表、情報収集を目的とした学会参加のための旅費に使用する。
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