2015 Fiscal Year Research-status Report
バクテリア縮小ゲノムシステムを利用した増殖、生存機構の解明
Project/Area Number |
15K06922
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
加藤 潤一 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (10194820)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ゲノム / 微生物 / 遺伝学 / 遺伝子 / 大腸菌 / 必須遺伝子 / 16S rRNA / 合成致死 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の増殖および生命システムを維持するための基本的なメカニズムの解明を目指して、大腸菌を材料にし、我々が作製してきた染色体広域欠失変異群、ゲノム縮小株を利用して、以下の様な研究を行った。 <1>潜在的な必須遺伝子群の同定、解析:ゲノム縮小株を用いると複数の遺伝子の欠損による合成致死をシステマティックに解析できる。実際に4カ所の欠失変異による合成致死を同定し、原因遺伝子の一つをクローニングした複製が高温感受性のプラスミドを利用することにより、条件致死株を作製した。その株に染色体ライブラリーを導入することによって、多コピーサプレッサーとしてDNAポリメラーゼと相互作用する興味深い新規DNA修復関連遺伝子を同定した。またゲノム縮小株の酸化ストレス耐性を調べることにより、微好気条件での生存機構として、余剰の還元力を、活性酸素種を産生させないように処理する、広い意味での酸化ストレス耐性機構を明らかにした。 <2>16S rRNAプロセシングの解析:機能未知必須遺伝子が16S rRNAプロセシングに働くRNaseであることを明らかにし、16S rRNAプロセシングは、形成途中は不活性型のリボソームを完成時に活性型にするスイッチとして生理学的には機能していることを明らかにした。また16S rRNAのプロセシングされる領域には、異常なプロセシングにより不活性型が形成されるのを防ぐ機能があることを明らかにした。 <3>試験管内進化系を利用した基盤プロセスの解析:ゲノム縮小株を継代培養することにより生育が部分的に回復した株を得て、その解析から機能未知のToxin-Antitoxin systemを同定した。このToxin-Antitoxin systemおよびそのファミリー全てを欠失させた株を作製したところ、これらのシステムが抗生物質耐性や酸化ストレス耐性に関与することを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<1>潜在的な必須遺伝子群の同定、解析:ゲノム縮小株を利用して、合成致死により潜在的な必須遺伝子群を同定するシステムを構築することができたのは大きな前進である。実際にこのシステムを利用して興味深い新規DNA修復関連遺伝子を同定することができたので、この新規遺伝子の機能について今後詳細に調べていきたい。また微好気条件での生存機構として、広い意味での酸化ストレス耐性機構を同定できたことも重要な進展である。ただ、まだ新規遺伝子を含めて多くの関与する遺伝子群の同定、解析が十分ではない。またさらにこれらの酸化ストレス関連遺伝子とも関わる鉄イオン利用関連遺伝子群の同定、解析はまだ始まった段階である。プロテアーゼ関連遺伝子群についても、これから合成致死を利用して関連する遺伝子群を探索しようとしている。このように基本的なシステムが構築され、実際にうまく機能することが示されたのは大きいが、さらにもっと広くこのシステムを利用して潜在的な必須遺伝子群の同定し、それぞれの解析を進めるのは今後の課題である。 <2>16S rRNAプロセシングの解析: 16S rRNAプロセシングについては、当初の計画以上に進展した。 <3>試験管内進化系を利用した基盤プロセスの解析:ゲノム縮小株の継代培養から同定されたToxin-Antitoxin systemが、酸化ストレス耐性に関与することを示唆する結果が得られたことは重要な進展である。これまでToxin-Antitoxin systemの生理学的な機能としては、近年、プログラム細胞死やPersistence現象が知られているが、それらとは異なる新たな機能に結びつく可能性がある。しかし現在はその可能性が示唆された段階で、まだ十分に確立されたとは言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
<1>潜在的な必須遺伝子群の同定、解析:ゲノム縮小株により合成致死を同定し、それを利用して多くの潜在的な必須遺伝子群を同定し、それ自身の解析を進めると同時に、関連する遺伝子群、ネットワークを解明するシステムが構築できた。今後はまず、このシステムにより同定された新規DNA修復関連遺伝子の関連遺伝子群を探索し、機能およびネットワークを明らかにする。また微好気条件における広い意味での酸化ストレス耐性機構に関与する遺伝子群の同定をさらに進め、これらの解析を行い、この広い意味での酸化ストレス耐性機構の全貌を明らかにする。また酸化ストレスとも深く関連する鉄イオン利用関連遺伝子群の同定、解析についても進める。さらにプロテアーゼ関連遺伝子群についても、合成致死を利用した関連する遺伝子群の探索を進める。これら以外にも潜在的な必須遺伝子群の同定、解析を広く行い、さらに同定された遺伝子群の関連遺伝子群へと発展させ、それぞれの解析を進める。 <2>試験管内進化系を利用した基盤プロセスの解析:ゲノム縮小株の継代培養から同定されたToxin-Antitoxin systemについて、酸化ストレス耐性に関与することを確立し、それが定常期における生存に関わるなど、生理的な機能についても明らかにしていく。またこのToxin-Antitoxin systemの機能が誘導されるメカニズム、特にAntitoxinの遺伝子発現調節機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2015年度は民間の助成金や大学の学生教育費が想定以上に多かったため、科研費からの支出を抑えることができて、2016年度の研究のために回すことができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品費の不足が見込まれるので、主にそちらに使用したい。また研究成果を発表する予定なので、投稿料などにも使用する予定である。さらに余裕があれば、使用しているパソコンの更新を行いたい。
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