2016 Fiscal Year Research-status Report
関東甲信地域ニホンジカ個体群の分布拡大に伴う地理的遺伝構造の解明
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15K06938
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
田中 和明 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (50345873)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南 正人 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (10548043)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ニホンジカ / ミトコンドリアDNA / マイクロサテライト / Y染色体 / 集団遺伝 / 多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
関東甲信地域のニホンジカの遺伝的集団構成および個体の流動を明らかにするために、母系遺伝マーカーであるmtDNA,父系遺伝マーカーであるY染色体上、および常染色体性のマイクロサテライトマーカーの解析を行った。3年間の研究期間のうち、2年目が終了した時点で、合計598個体の組織を収集した。試料の内訳は、群馬県428個体(尾瀬地域で302個体、赤城山地域で114個体,甘楽郡を中心とした南西地域で12個)、長野県64個体(軽井沢町で29個体、浅間山で26個体,長和町で9個体)、山梨県106個体(山中湖村57個体、早川町49個体)である。現時点で、mtDNAのコントロール領域の配列決定を全ての個体で完了した。Y染色体およびマイクロサテライトマーカーについても分析を進めている。598個体の中で尾瀬地域の16個体、山中湖村の6個体および、早川町の4個体では、39塩基の反復配列の繰り返し数が異なるハプロタイプが混在するmtDNAヘテロプラスミーであった。ヘテロプラスミー個体を除外すると、群馬県で7種類、長野県で8種類(昨年度の報告では、12としていたが、重複カウントがおきていたため訂正する)、山梨県で11種類のハプロタイプが見つかった。尾瀬地域では286個体中267個体(93.4%),赤城山地域では、114個体中112個体(98.2%)が、同一のハプロタイプ(Hap-G1/Y1)を保有していた。さらに、ハプロタイプ多様度が、それぞれ0.127と0.033と非常に低い値を示し、mtDNAの多様性が著しく小さいことが示された。これに対して群馬県南西地域では、Hap-G1/Y1の頻度は8.3%で、ハプロタイプ多様度は0.439と高い値であった。Fst値を使って集団間の枝分かれ図を作成すると、長野県、山梨県および群馬県南西地域が1つのグループにまとめられ、群馬県東部の集団と大きく異なっていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点で解析したニホンジカの個体数が598個体に達しており当初の計画である500個体をすでに上回っている。また、平成29年5月に、長野県小諸市において研究分担者が、新たに雄10個体のサンプリングに成功した。これにより浅間山の長野県側の調査個体数を追加することができた。これにより上信越地域における群馬県側と長野県側のニホンジカの遺伝的構成および個体の移動に関する研究を完結できる試料数が整った。またmtDNAの解析については、新たに加わった試料を除き全個体の解析が完了している。 マイクロサテライトマーカーの分析では、BL42、BM203、0BOVIRBPの3座位について192個体について解析が終了している。これらの座位では対立遺伝子の数は4~8個で観察されたヘテロ接合体率は0.31~0.40の間であった。残りのCervid14、CSSM019、CSSM66、BMC1009、INRA128 RM118、OarFCB193についても実験を進めており平成29年度中には、実験計画通りの分析が完了できる見込みである。 Y染色体上の遺伝子マーカーでは、5座位のウシY染色体マイクロサテライトマーカー(INRA008, INRA057, INRA062, INRA124, INRA126)のPCR条件を検討した。しかし、雄に特異的な増幅が得られなかった。このためウシY染色体マイクロサテライトマーの中から、ニホンジカに有効なマーカーを探索するのは困難であると結論付けた。このことから、Y染色体上に存在するAMLEY、DBY、ZFY遺伝子上に存在する合計9カ所の一塩基多型SNPを用いたY染色体ハプロタイプの解析に集中することとし、順調に遺伝子型を決定できている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究に必要な標本数の収集が終了し、さらにミトコンドリアDNAの解析がほぼ完了している。最終年度は、研究計画に従ってABI3130型genetic analyzerを用いたマイクロサテライトマーカーの遺伝子型判定を中心に実験を進める。各個体のマイクロサテライトマーカー遺伝子型を蓄積し、コンピュータープログラムSTRUCTUREを用いてクラスター分析する。これによって、群馬県、長野県、山梨県の中で、ニホンジカの生息密度が高く、試料個体数が多い地域を対象に分集団構造と始祖集団の推定を行う。さらに、ニホンジカの生息密度が低い場所で採取された個体の遺伝的構成を解明することで個体の移動経路と生息地の拡大様式を明らかにする。 mtDNAの分析結果では、尾瀬・赤城山地域と、群馬県南西部、軽井沢および浅間山地域とではハプロタイプの構成が大きく異なることが明らかになった。この結果は、両地域間でニホンジカの交流は、頻繁ではない事を示唆している。しかし、両地域間には、ニホンジカが移動可能と思われる三国山脈が存在する。このためニホンジカの生息域の拡大に伴って、徐々に個体の流入がおきている可能性を否定できない。マイクロサテライトマーカーの結果と対比させ詳細な分析を行う。また、山梨県山中湖村のニホンジカでは、尾瀬・赤城山地域で93%以上の高頻度で出現するmtDNAハプロタイプ(Hap-G1/Y1)が、43.1%の頻度で検出された。しかし、Hap-G1/Y1は長野県の個体からは検出されていない。マイクロサテライトマーカーの分析結果を比較し、過去にニホンジカの移入が行われた可能性を含めHap-G1/Y1が飛び地状に分布した原因を追究する。 さらにY染色体性マーカーの分析では、多様性は低いものの日本列島全体では10種類のハプロタイプが検出できたことから、新たな遺伝マーカーとして活用を進める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が、4441円生じているのは、所属研究機関において、消耗品の発注に、競争入札システムが導入されているために通常価格に比べ割安で購入できたものがあったため差額が生じたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、価格改定により値上がりした試薬もあるため予算内で研究を完結できるように一層の注意を払う。
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