2015 Fiscal Year Research-status Report
プロトン駆動力変換機構に関わる細菌ExbB-ExbD-TonBの構造研究
Project/Area Number |
15K06986
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
眞木 さおり 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, 研究員 (20513386)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米倉 功治 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, 准主任研究員 (50346144)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | X線結晶解析 / 高分解能電子顕微鏡解析 / 構造生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸菌などのグラム陰性菌では、栄養素やタンパク質毒素コリシンを細胞外から内へ輸送する分子機構を備えている。例えば、鉄、ニッケルなどの生命活動に必須な金属、糖質、ビタミンB12は、外膜にある専用のレセプターを通過し、ペリプラズムを経て細胞質に取り込まれる。これらの外膜レセプターからペリプラズムへの物質の輸送に必要なエネルギーは、細胞内膜のプロトンチャネルExbB-ExbD-TonB複合体を介して、細胞質膜内外に生じるプロトン駆動力(Proton motive force; pmf)により供給される。 本研究では、ExbB-ExbD-TonB複合体の構造解析から、内膜プロトンチャネルから外膜レセプターへのpmfの供給機構を解明することを目指している。 本年度は、本研究申請時に発現系および精製法が確立していたExbB-ExbD複合体のX線結晶構造解析に向けて精製条件と結晶化条件の最適化を行い、これまでと全く異なる条件の結晶から2.7 Å分解能までのフルデータセット測定をすることができた。また、静電ポテンシャル分布を解析するために同じ結晶を電子線結晶構造解析用に最適化し、2.5Å分解能までの電子線回折の回転写真を効率よく収集することができた。 低温電子線単粒子像解析によるExbB-ExbD複合体の構造解析も同時に進めた。結晶化条件とは異なるpH状態で複合体を精製し、電子線直接検出型の高速読み出しカメラで動画撮影によるデータ収集を行い、画像解析を行った結果、約7Å分解能の三次元構造を再構成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでExbB-ExbD複合体の大量発現系の構築、精製と結晶化、大型放射光施設SPring-8でのX線回折実験を行ってきた。研究の開始時点までに得られていた結晶では、薄い結晶の層が角度をわずかに変えて積み重なっており、層と平行にX線を照射すると3.2 Å分解能までの回折点を与えるが、それを90°回転した方向からは約8Åまでの回折点しか観測されなかった。また、結晶の再現性も良くなかった。 そこで、蛋白質の精製、結晶化の条件を広範に探索し、100μm程度の平板結晶を得ることができた。この結晶からSPring-8のマイクロフォーカスビームラインBL32XUにおいて、~2.7Å分解能までのフルデータセット測定することに成功した。また、光学顕微鏡では観察することができない数百nm程度の非常に薄い結晶から電子線回折を測定するため、最適な結晶、結晶の凍結条件の検討を行った。その結果、東京大学分子細胞生物学研究所の電子分光装置を備えた加速電圧300 kVの電子顕微鏡で、2.5Å分解能までの電子線回折の回転写真を効率よく収集できた。 低温電子顕微鏡の単粒子解析では、薄い氷中に蛋白質が単分散していることが必要であり、界面活性剤や試料の凍結条件を保有する低温電子顕微鏡システムを探索した。凍結し試料から、大阪大学、オランダ ライデン大学の共有施設やアメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校の電子顕微鏡システムを用いて、多数の高品質の画像を取得することができた。現在、高分解能の構造解析を実現するため、電子線直接検出型のカメラで高速撮影したフレーム間の動きを補正しベイズ統計と最尤法を利用した画像解析を進め、初期三次元構造を得ている。 以上のように研究の進捗は大きかったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
X線回折で測定した回折パターンを処理しているが、結晶のパラメーターの確定には至っていない。この結晶では最も長い結晶軸がゴニオメーターの回転軸に対してほぼ垂直方向を向き、回折点の分離を難しくしていた。そこで、あらかじめ角度を付けたループに結晶をマウントし、回折点の分離を改善しより精度高いデータの測定を行う。さらに、SeMet置換体、重原子置換体からの位相情報の取得を行う。電子線結晶構造解析では、荷電粒子である電子線の特徴を活かして、プロトン通路等の荷電状態の可視化を目指す。 さらに電子線の単粒子解析で、初期三次元構造の計算とそれを基にしてより高い分解能の構造を得るべく解析を進める。また、蛋白質溶液のpHを変化させ、構造変化を捉える。単粒子解析で得られた構造を結晶解析の初期位相として利用することも試み、ExbB-ExbD複合体の構造決定を最優先に研究を進める。 ExbB-ExbD-TonB複合体では、発現系の構築と、精製条件の検討を行う。ExbDでは25番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変えることで、ExbDとTonBが安定な複合体を形成することが報告されている。該当するアスパラギン酸は、べん毛モーターを駆動するMotAB/PomAB複合体等でも保存された、機能発現に重要な残基であることが示唆される。本研究でExbDにこの変異を導入し、ExbB-ExbD-TonBの共発現系から三者の複合体を大量発現、精製、結晶化を進める。ExbB-ExbD-TonB複合体も同様に構造解析し、X線と電子線を相補的に用いた構造解析から、ExbB-ExbD-TonB複合体の構造を高い分解能で決定し、構造に基づいたpmfのエネルギー変換機構を解明することを目指す。
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Causes of Carryover |
申請時は、ニコン実体顕微鏡システム一式(1,000,000円)とニコン顕微鏡用デジタルカメラ(500,000円)の購入を予定していたが、より小さな結晶観察に適したライカの実体顕微鏡システムに変更したため、購入金額が1,587,600円になった。配分された物品費(1,800,000円)では、デジタルカメラを購入することができなかったので、請求額との差額が生じた。旅費も計上していた額より下回ったので差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は物品費に450,000円と旅費に450,000円を計上している。今年度の差額分255,560は、物品費に計上する。500,000円以上の物品の購入を予定していないが、試薬を保管するショーケース(350,000円程度)、液体窒素容器10L(150,000円程度)の購入を予定している。
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