2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K07014
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 俊治 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 主幹研究員 (60618809)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 構造機能相関 / F1-ATPase / 生体エネルギー変換 / 分子モーター / 顕微鏡一分子観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
組み換え体ヒトF1の大腸菌内での発現量は低いため、まずは発現量が高いウシF1を使用する事とした。ウシF1は、触媒サブユニットの配列が99%ヒトF1と同一であり、ヒトF1と高度に類似の特性を持っていると考えられる。初年度(平成27年度)では、本研究課題を遂行する上で必要な更なる分析法の確立を検討し、ウシF1のX線結晶構造解析のシステムの確立に成功した。そこで本研究では、計画していた顕微鏡一分子観察に加え、X線結晶構造解析を行う事により、回転と分子構造の両面からF1の機能調節機構の解明を行う事とした。 顕微鏡一分子観察では、まず世界で初めてウシF1の回転の直接観察に成功した。次に、レスベラトロールによるF1の阻害機構を分析した。その結果、レスベラトロールはF1の加水分解待ちの角度である90度とATP結合待ちの120度で回転を停止させる事が判明した。特に、長時間の停止は90度付近で発生する事から、少なくともレスベラトロールの阻害機構の一つは、90度でのATP加水分解待ちの分子状態を固定する事である事が示唆された。 更にウシF1のX線結晶構造解析を行った。まず様々な結晶化条件をサーチし、F1の回転子の角度が、リン酸解離待ちである65度、リン酸解離中間体である75度、リン酸解離後の加水分解待ちである90度である結晶の結晶化条件と、その結晶構造を決定する事に成功した。そして、これらの結晶にソーキングによりレスベラトロールを導入し、F1-レスベラトロール複合体の結晶構造の決定を試みた。その結果、レスベラトロールは、65度の構造にも弱く結合できるが、主に90度の分子状態に強く(高い占有率で)結合する事が判明した。この結果から、上記の一分子回転解析から得られた結果と同様に、レスベラトロールはF1の加水分解待ちの分子状態を固定するという阻害機構が、分子構造の点からも示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウシF1を優先使用して研究を行ったことにより、研究の進行速度が一気に高まる結果に繋がった。また本研究でウシF1のX線結晶構造解析システムを確立したことは、本研究課題だけでなく、今後の哺乳類F1の研究を考える上でも非常に意義の大きい成果と言える。なぜならこのシステムを用いる事により、65度、75度、90度の3つの分子構造を詳細に分析が可能となったためである。この言わば、この「角度分割X線構造解析」を用いる事により、これら3状態への阻害剤の結合の有無・結合様式・結合による構造変化などを、原子レベルで詳細に明らかにすることが可能となった。 また顕微鏡一分子解析も、レスベラトロールによるウシF1の阻害(回転の停止)を、酵素反応の素過程に対応付けて解明する事に成功した。更に、上記角度分割構造解析システムを活用する事により、その阻害状態を原子レベルで明らかにすると共に、角度依存的なレスベラトロールの結合能がγR260残基の側鎖の角度依存的な構造変化により引き起こされることも明らかにする事ができた。また、α-ケトグルタル酸の解析も進めており、部分的ではあるが、一分子解析・X線構造解析共にデーターが出始めている。本研究課題である「阻害剤による哺乳類F1の機能調節機構の解明」という観点から、研究は順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
第一年度の研究により、レスベラトロールによるウシF1の機能制御機構を、顕微鏡一分子解析と角度分割X線結晶構造解析による明らかにすることに成功した。この分析システムは汎用性が高く、様々な阻害剤に対して使用する事ができると考えられる。そこで第2年度以降は、これら分析システムをα-ケトグルタル酸に適用する。また近年、がん細胞では変異イソクエン酸脱水素酵素の発現による異常代謝により、α-ケトグルタル酸ではなく2-ハイドロキシグルタル酸が生合成され、それも同様に哺乳類F1の機能を阻害し長寿命化を引き起こす事が報告されている(*** Cell Metabolism 2015)。そこで平成28年度では、これらの物質による阻害機構の解明も、X線結晶構造解析と顕微鏡一分子解析により、同様に行う。 また、上記のように分析法の確立がほぼ出来つつあるので、IF1による阻害機構の解析も開始する。まずはC末端領域を欠失させたIF1を、これら確立した分析法に適用する。研究計画書にあるIF1のN末領域の変異導入とその阻害機構の解明は、平成28年度終了時までに得られた阻害剤やC末欠失IF1の結果から具体的に変異部位や解析法などを決定し、最終年度(平成29年度)に行う。
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Research Products
(11 results)