2017 Fiscal Year Research-status Report
脳神経系ムチン型糖鎖修飾に関わるオーファン糖転移酵素の機能解析
Project/Area Number |
15K07015
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
黒坂 光 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (90186536)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 喜明 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (40512455)
加藤 啓子 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (90252684)
中村 直介 京都産業大学, 総合生命科学部, 研究助教 (30424964)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 脳 / ムチン型糖鎖 / ゲノム編集 / ゼブラフィッシュ / 神経分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,タンパク質の主要な翻訳後修飾反応の一つであるムチン型糖鎖修飾が神経機能に及ぼす影響の解明を目的とする.研究代表者らは,これまでにムチン型糖鎖の合成反応を開始する N-アセチルガラクトサミン転移酵素 (GalNAc-T)の中で,神経細胞に特異的に発現するアイソザイムを単離した.またムチン型糖鎖修飾に関わるシアル酸転移酵素の ST3GalIV が神経細胞の分化に伴い発現量が亢進することを見出した.これらの酵素はいずれも基質が未同定のオーファン酵素であり,脳における機能の解析もなされていない.本研究ではこれらの神経に高発現する糖転移酵素群について,ゼブラフィッシュ,培養細胞を用いてCRISPR/Cas9法,TALEN 法などのゲノム編集技術を用いて変異体を作製し,胚の初期発生,神経系の分化や機能などにおけるこれらの分子の機能を解析した. ゼブラフィシュでは,18種類のGalNAc-Tアイソザイム遺伝子(galnt遺伝子)を発現していることを見いだした.そのうち,神経細胞時的なgalnt9,galnt17遺伝子についてゲノム編集法を用いて変異体を作製することに成功した.galnt9欠失変異体では,目立った表現型の変化は観察されなかった.galnt17欠失変異体では,初期胚の一部において,後脳を中心とした脳において形態異常がみられた.これらの欠失変異体については,個体数を増やして表現型の変化をより詳細に解析する.さらに,galnt9,galnt17は互いに相同性が高いために,欠失変異体において互いに機能を補完している可能性が考えられた.変異体同士の交配により,二重変異体を作製しつつある. 培養細胞については,神経細胞への分化能を有するマウス胚性由来癌細胞,P19細胞を用いて変異体を試みた.CRISPR/Cas9を用いてゲノム編集を行い,細胞のスクリーニングを行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,変異体作製を通じてこれまで報告例がほとんどない神経細胞におけるムチン型糖鎖の機能解析を行うものである.ゼブラフィッシュにおける変異体作製は,モデル生物の維持・管理,ゲノム編集を受けた個体の識別,飼育,さらに交配を繰り返すことが必要であり,時間と手間のかかる実験である.本研究では,当初の目的通り,galnt9,およびgalnt17欠失変異体の作製に成功している.また,これら以外のgalntファミリー遺伝子についても欠失変異体作製に成功しており,変異体作製ついては,当初の計画通り,もしくはそれ以上の成果を得ている.その一方で,表現型の観察については,欠失変異体の個体数が十分でないため,現段階では結論を得るに至っていない. 培養細胞を用いた実験については,モデル生物を用いる系よりも,実験が容易であり研究期間内に,変異体作製,タンパク質発現プロフィール解析など十分行えると見込んでいた.実際は,CRISPR/Cas9のゲノム編集効率が低いなどの予想外の展開となり,変異体作製に至っていない.培養細胞に関わる実験ついては,当初の予定と比べると進捗状況は芳しくない.
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Strategy for Future Research Activity |
ゼブラフィッシュを用いた実験では,より多くの個体を用いてgalnt9,galnt17欠失変異体の初期胚における表現型を観察する.また,これらの遺伝子は互いに相同性が高く,どちらも脳特異的に発現するため.変異体同士の交配により2つの遺伝子を同時に欠失した変異体を作製する.あるいは,変異体にモルホリノオリゴを用いた遺伝子発現抑制実験を行い,2つの遺伝子の機能を同時になくした初期胚の表現型の変化を観察する. 培養細胞を用いた実験では,CRISPR/Cas9によるゲノム編集実験を継続する.ゲノム編集の実験系が確立するとその後の研究は比較的容易に進行すると予測されることから,ムチンが糖鎖の合成に関わる他の糖転移酵素,分子シャペロンなども標的分子として研究を進めていく. 得られた変異体については,分子レベルの解析を行い,基質の同定に繋げる.培養細胞,およびゼブラフィッシュについては脳組織を用いてタンパク質抽出画分を作製し,ムチン型糖鎖を識別するレクチンを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどにより,標的分子により糖鎖修飾を受ける分子群を精製する.精製した分子については,質量分析を行い,タンパク質,および糖鎖付加部位を同定する.これらの情報をもとに,基質分子を同定する.
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Causes of Carryover |
変異体作製と解析に関わる実験を継続する必要がある.また,これまでの研究成果をまとめて,論文投稿の予定であり,そのため経費等が必要である.以上の理由により,次年度使用額が生じた.
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