2016 Fiscal Year Research-status Report
ショウジョウバエをモデルとした細胞間接着装置の形成機構の解析
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15K07048
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
泉 裕士 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 准教授 (10373268)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 上皮細胞 / 細胞間接着装置 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮細胞の細胞間接着装置の形成には、細胞接着分子群を細胞膜上の特定の場所へ誘導し、装置の完成をオーガナイズする特別な仕組みがあると考えられている。しかし、その分子メカニズムは未だ不明な点が多い。私はショウジョウバエの細胞間接着装置、スムースセプテートジャンクション (以下sSJ)をモデルにしてこの課題に取り組んでいる。これまでに、sSJの構成分子としてSskとMeshを同定し、さらに遺伝学的スクリーニングにより複数のsSJ形成への関与が示唆される分子を同定した。平成27年度はこのうち、テトラスパニンタンパク質Tsp2AがsSJ形成に関わること、sSJ構成分子(Mesh, Ssk)はsSJ領域に集合する前にいったん細胞膜のラテラル領域に局在するが、Tsp2Aはその過程に必要であることを示した(J.Cell Sci.,2016,129,1155)。平成28年度はスクリーニングで同定した分子のうち、1回膜貫通型タンパク質CG13704の機能解析を中心に研究を進め、次に挙げる成果を得た。(1)CG13704に対する抗体を作成し、この分子がsSJに局在することが分かった。(2) CRISPR/Cas9システムを利用することにより、CG13704のショウジョウバエ変異系統の作出に成功した。(3) CG13704変異系統の中腸では、MeshなどsSJ構成分子がsSJに局在できないことが分かった。(4) CG13704変異系統の幼虫において、中腸上皮バリア機能の異常が明らかになった。(5)CG13704は、Ssk、Mesh及びTsp2Aと複合体を形成することが明らかになった。これらの結果より、CG13704はsSJ構成分子であり、sSJ形成そして中腸上皮バリア機能に関わっていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実施計画として、次の二項を挙げていた。 (1) sSJ形成における1回膜貫通型ロイシンリッチリピートタンパク質CG4781の機能解析。 (2) sSJ形成における1回膜貫通型タンパク質CG13704の機能解析。 (1)に関しては、(2)のCG13704の機能解析を優先したため、平成27年度から大きな進展はなかった。 (2)の研究実施計画は次の様な進捗状況である。(A)CG13704抗体の作成を試み、CG13704タンパク質を特異的に認識する抗体の作成に成功した。この抗体を用いてショウジョウバエ中腸の蛍光免疫染色を行ったところ、CG13704の中腸上皮細胞での特異的な発現、及びsSJでの局在を確認した。 (B) CRISPR/Cas9システムを利用することによりCG13704変異系統作出に成功した。さらに、その中腸上皮細胞ではsSJ構成分子であるMesh、Ssk、Tsp2AがsSJに局在できないことが分かった。(C)CG13704変異系統の幼虫へ蛍光色素ラベルされたトレーサーを含む餌を経口投与したところ、トレーサーが腸管の外側に漏れ出していることが分かった。この結果より、CG13704は腸管バリア機能に必須であることが分かった。(D) CG13704はMesh、Ssk、Tsp2Aと同様にsSJの構成分子であるため、これらの分子がsSJにおいて複合体を形成していることが示唆された。その検証のために、ショウジョウバエ幼虫の可溶化分画を用いた共免疫沈降実験を行った結果、CG13704とMesh、Ssk、Tsp2Aとの共免疫沈降が認められた。これらの結果より、CG13704は他のsSJ構成分子と複合体を形成し、sSJ形成と機能に関わっていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究推進方策については以下の通りである。 (1) sSJ形成における1回膜貫通型タンパク質CG13704の機能解析。 平成28年度に引き続き、次の様にCG13704の解析を進める。(A) CG13794変異系統におけるsSJ構成分子(Mesh、Ssk、Tsp2A)の局在異常についてさらに解析を進め、CG13704がsSJ構成分子の細胞膜ラテラル領域への局在過程に関わっているのか、sSJ領域への集合の過程に関わっているのかを明らかにする。(B)CG13704のsSJ局在が他のsSJ局在分子によって制御されているかを、mesh, ssk, Tsp2A変異系統におけるCG13704の局在を観察することにより明らかにする。各変異系統でCG13704の局在異常が見られた場合、それぞれのsSJ構成分子がCG13704の局在過程のどの様な段階に関与しているか解析する。(C) CG13704 変異系統における腸管上皮細胞のsSJが実際に形態的異常を示しているか、電子顕微鏡観察により解析する。また同時に、CG13704変異系統の上皮細胞の形態を観察し、上皮細胞極性に対する関与の有無を明らかにする。(D) CG13704をS2細胞に発現誘導し、細胞間接着誘導能を検討する。 (2) sSJ形成における1回膜貫通型ロイシンリッチリピートタンパク質CG4781の機能解析。 平成29年度はCG13704の解析を中心に研究を進める予定だが、次に挙げる計画も同時進行する予定である。(A)CG4781をより強く検出できる抗体の作成を試みる。作製出来なかった場合に備え、CG4781-GFPの発現するmesh, ssk, Tsp2A変異系統作製を検討する。(B) CRISPR/Cas9システムを利用したCG4781変異系統の作出を試みる。
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Causes of Carryover |
平成28年度はショウジョウバエ系統の維持、各種系統作成や蛍光免疫染色などの実験は例年通りの規模で進めたが、分子生物学的実験についてはほとんど行う機会がなく、そのような実験に必要な試薬、酵素類の購入がほとんどなかったことが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度はショウジョウバエ系統作成数の増加が見込まれる。そのため、ショウジョウバエの維持経費に予算を多めに割り当てる必要がある。また、今年度は国内で開催される3つの学会に参加予定であり、そのための旅費にも割り当てる予定にしている。
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Research Products
(5 results)