2016 Fiscal Year Research-status Report
光スイッチ機構を持つ低分子量G蛋白質Rasの開発と細胞内情報伝達の光制御
Project/Area Number |
15K07060
|
Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
丸田 晋策 創価大学, 理工学部, 教授 (40231732)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 低分子量Gタンパク質 / 細胞内情報伝達 / フォトクロミック分子 / 光制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
Rasは、低分子量G蛋白質の1つで、細胞の増殖・分化、遺伝子発現、細胞間接着などの重要な細胞機能の調節を行っている。また、GTP加水分解に関係するアミノ酸の変異は細胞の癌化を誘導することが分かっている。Rasの構造とその生体分子機械としての分子機構は良く研究されているので、その仕組みを巧みに利用して外部刺激で制御することができれば、細胞機能の人工的な調節が可能になる。本研究では、RasとRasの制御因子の機械的な仕組みに光応答性のフォトクロミック分子を光スイッチ(制御ナノデバイス)として導入して、Rasの機能を光可逆的に制御することを目的としている。
1. 昨年度使用したSOS αH helixペプチドを改変した最適化ペプチドを調製し、二価架橋性アゾベンゼン誘導体ABDMを修飾した。そして、ABDM修飾したペプチド(SOS-ABDM)が実際に光異性化し、ペプチドの二次構造に変化を与えるかどうかを吸光スペクトルおよびCDスペクトルで確認した。蛍光標識GDPアナログNBDを利用して、最適化SOSペプチド-ABDMがwild type SOSと競合阻害することが明らかになった。
2. 細胞への効果を調べる実験を行った。Rasの細胞情報伝達の制御を調べるために、よく知られているRAS/MAPKカスケードであるRAS/RAF/MEK/ERK経路を利用した。HeLa細胞にSOS-ABDMを作用させ、EGF刺激した後にERK1/2とpERKの割合をWestern blotで検出を行った。コントロール実験では、EGF刺激によってHeLa細胞内のRasが活性化して下流のMAPK/ERK経路が活性化し、ERKがリン酸化が観察された。これに対して最適化SOSペプチド-ABDMを加えるとERKのリン酸化の割合が減少した。このことから、SOSペプチド-ABDMが細胞へ応用可能であることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画であったSOSペプチドに二価架橋性アゾベンゼン誘導体を導入して、ペプチドの二次構造を光可逆的に変化させる方法の基盤を確立することができた。この方法により初年度のペプチドのアミノ酸配列を最適化したペプチドでも同様に導入することができた。さらに、細胞内でのRASの情報伝達機能を制御できる可能性を示す予備的な実験結果を得ることができた。今回、Rasの細胞内での機能を見るために利用したRAS/RAF/MEK/ERK情報伝達経路は、古典的なRAS/MAPKカスケードであり、おもに増殖因子による刺激を核に伝え、細胞の増殖・分化・細胞死に関わるものである。活性化したRASがRAFを活性化し、RAFが下流のMEK1/2の2つのセリン残基をリン酸化し、MEK1/2がERK1/2のスレオニン残基・チロシン残基をリン酸化することによりシグナルが伝達される。活性化したERK1/2は核の中に移行してELK-1、Sap-1などの転写因子を活性化するとともに、細胞質でRSK(ribosomal S6 kinase)やMNK(MAP kinase interacting kinase)をリン酸化する。今回の実験で、アゾベンゼン誘導体を導入したSOSペプチドは、細胞内でERKのリン酸化を阻害する事が示された。これらの結果は、実際にフォトクロミックSOSペプチドが細胞レベルでRASの情報伝達に影響を与えることを示しており、本研究計画の最終的な目的を達成できる可能性を強く示唆している。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. 効率の高い光可逆性を示すフォトクロミック誘導体架橋SOSペプチドの調製 効果的にRasの機能を制御するためにRasへの親和性が高い最適化したSOSペプチドのデザインと合成を行う。そして、アゾベンゼンだけでなく、その他のフォトクロミック分子・スピロピラン誘導体の導入も試みる。 2. 新規水溶性二価架橋性アゾベンゼン誘導体のSOSペプチドへの導入 これまで用いてきたアゾベンゼン誘導体は、疎水性が強く導入したペプチドの水溶液への溶解度に問題があった。そこで、アゾベンゼンの芳香環にスルホン基が結合した水溶性の高いアゾベンゼン誘導体を合成してペプチドへの導入を試みる。 3. フォトクロミック誘導体架橋SOSペプチドを用いた細胞内でのRas機能の光制御 本年度の予備的な実験で、アゾベンゼン誘導体導入SOSペプチドが、RASの細胞内情報伝達下流の酵素であるERKのリン酸化を抑制することが示されたので、効果的な光可逆的な制御方法を構築することを目指す。
|
Causes of Carryover |
合成ペプチドを依頼したメーカーの納期延長により当該年度に入手できなかったため
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画していた合成ペプチドの購入費用として使用する予定である。
|