2015 Fiscal Year Research-status Report
尾索動物種を用いた生殖細胞系列における転写制御機構の解析
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15K07071
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
熊野 岳 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (80372605)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 始原生殖細胞 / 転写制御 / 尾索動物 / ホヤ / 母性局在因子 / PEM / 比較発生学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、尾索動物胚を用いた生殖細胞系列での転写制御機構に焦点を当てた発生学的および比較発生学的な解析を通して、発生初期における生殖細胞系列形成機構とその進化について明らかにすることを目的とする。27年度は、近年申請者らが同定したホヤにユニークな母性局在転写抑制因子PEMを足掛かりにして、他のホヤ母性局在因子群による生殖細胞系列での転写制御機構を、PEMとの関連のもとに解析を行った。母性局在因子群の中でも、特にZinc-fingerドメインを持ちRNA結合たんぱく質をコードすると考えられるZF-1に着目した。これまでは、ZF-1の機能阻害により、生殖細胞系列で胚性発現を示す遺伝子(クローン45)の初期の発現が消失し、発生に伴うPEMタンパク質の減少が抑制されたことを示すにとどまっていたが、今回、ZF-1とPEMのダブルノックダウン実験から、ZF-1機能阻害による胚性遺伝子発現消失が、PEMの機能をさらに阻害することで、発現が回復することを明らかにした。このことは、ZF-1の胚性遺伝子発現制御が確かにPEMを介したものであることを示しており、ZF-1がPEM mRNAの翻訳または安定性を制御し、PEMのタンパク量を発生に伴って減少させることで、PEMによる転写抑制を解除させ、胚性遺伝子発現開始の条件を整える、という我々のモデルを支持するものである。一方で、別の生殖細胞胚性発現遺伝子であるクローン172を用いて同様の実験を試みたところ、現在までのところ、ダブルノックダウンでの発現回復は観察されていない。遺伝子により転写抑制解除機構が異なるとなれば興味深いが、PEMがRNA polymerase IIの活性化抑制を介してグローバルに転写抑制をしていることを考えると、今後十分に検討の余地があると考えているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験を遂行する大学院生が療養のために休養したため。現在は完全復帰し今後の計画遂行に支障はない。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画通りに進める。引き続き、ホヤ母性局在因子Postplasmic/PEM mRNA群に属するZF-1とPOPK-1を中心に、これら因子の機能について明らかにし、マボヤ初期胚での生殖細胞系列における転写制御機構を体系的に理解することを目指す。具体的には、現在提案しているモデルで、1)POPK-1がPEM およびZF-1 mRNAを生殖細胞系列へ局在させ、2)PEMが転写を抑制し、3)ZF-1がPEM mRNAの翻訳抑制または分解を促進することにより、転写抑制状態の解除を行い、4)胚性発現が起こる、と考えているので、このモデルの検証を行う。さらに、本研究計画の第2の柱である、ホヤにユニークな因子PEMを使った転写抑制機構が、どのように進化してきたのかについて調べるために、ホヤ複数種においてPEMによる転写抑制機構を分子レベルで比較解析するのと同時に、オタマボヤ初期胚における生殖細胞系列での転写抑制状態を記載し、転写抑制因子の単離を試みることで、尾索動物での転写抑制機構の進化過程の理解に迫る予定でいる。
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Causes of Carryover |
研究計画を遂行している大学院生が療養のため休養していたため、当初の予定通り研究を進めることができずに、物品費・成果発表のための旅費等、予算使用額が大幅に減った。当該年度に行うことができた研究の量としては、研究室に既存の消耗品等物品と、別プロジェクトに携わる者が購入した物品を併用できる程度のものであったので、予算額の大幅な繰り越しとなってしまった。また、業績欄に記載した国際学会での発表は、これまでの研究成果を発表できた唯一の学会発表であったが、地元青森での学会開催であり、交通費・宿泊費がほとんどかからなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
休養していた大学院生は完全復帰し、現在は学位取得に向けて遅れた分を取り戻すべく研究を進めていることと、本プロジェクトに携わる大学院生が1名増えたことの2点から、28年度は前年度分と合わせた額を使用する予定でいる。特に、繰り越した額については、物品費と成果発表のための旅費に使用するつもりである。
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Research Products
(1 results)