2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K07086
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
田守 洋一郎 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 助教 (10717325)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 組織恒常性維持 / 細胞競合 / 組織修復 / 細胞成長 / メカノトランスダクション / ショウジョウバエ / 上皮細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で、分化した分裂後の成体上皮組織において一部の細胞が損傷等によって失われた場合、周辺細胞が細胞分裂ではなく核の多倍体化を伴う細胞肥大によって失われた場を埋め合わせる「補償的細胞肥大」という現象が組織修復能を担っていることを報告した。この補償的細胞肥大のメカニズムは、局所的な組織容積の減少により残存周辺細胞にかかる物理的伸張が細胞成長に関わる遺伝経路(IIS経路)の活性亢進を促し、核の多倍体化による細胞肥大が起こると考えられる。 このメカノトランスダクションに関わる分子を同定する目的で、ショウジョウバエ卵巣の伸展濾胞細胞をモデルシステムとして、RNAiを用いた機能阻害による遺伝学的スクリーニングを行った結果、神経系細胞においてメカノセンサーとしての働きが知られているtransient receptor potential channel (TRPC) の一つが候補遺伝子として同定された。 この遺伝子TRPC1は,細胞膜に局在し機械刺激に応答してカルシウムイオンの流入を制御していることが報告されているため、卵巣濾胞上皮において、カルシウムセンサーであるGCaMPを用いたカルシウムイメージングを行ったところ、内在的な伸張ストレスを受けている伸展濾胞細胞での細胞内カルシウム濃度が他の濾胞上皮細胞に比べて恒常的に高いことが明らかになった。さらにこの伸展濾胞細胞でTRPC1の発現を阻害すると、通常この細胞では高い活性を示すIIS経路の活性が低下することも確認された。また、実際に補償的細胞肥大が起こる細胞競合条件下において、このTRPC1の発現を阻害したところ、核の多倍体化が起こらなくなることも確認することができた。 以上の結果より、上皮組織における補償的細胞肥大においてTRPC1がメカノセンサーとして重要な役割を果たしている可能性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度にショウジョウバエ卵巣の伸展濾胞細胞をモデルシステムとした遺伝学的スクリーニングにより、補償的細胞肥大においてメカノセンサーとして重要な役割を果たしている遺伝子の一つ、TRPC1を同定することができたため、平成28年度は申請書の研究計画どおり、このTRPC1の機能解析を行った。これにより、実際にTRPC1が卵巣濾胞上皮の細胞競合条件下で補償的細胞肥大に必要であることを確認することができた。 また、スクリーニングによって同定されたTRPC1がカルシウムチャネルであったことから、カルシウムイメージングを行うことによって、伸展濾胞細胞での細胞内カルシウム濃度が他の濾胞上皮細胞に比べて恒常的に高いことを発見した。細胞内カルシウム濃度に関する実験は研究計画時には予想していなかったが、これらの実験結果によって、組織恒常性維持における細胞内カルシウム濃度と細胞成長に関わる遺伝経路活性との関係性を考えるという今後の新しい方向性が開けることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで順調に進んでいるため、平成29年度については申請書の計画どおり、スクリーニングで同定に成功したメカノセンサー候補遺伝子TRPC1とIIS経路の相互作用の解析に進む予定である。これまでに得ることができた伸展濾胞細胞での実験結果は、この上皮細胞におけるTRPC1と細胞内カルシウム濃度の関係、TRPC1とIIS経路活性の関係、そしてTRPC1と細胞肥大の関係を強く示唆している。これらを補償的細胞肥大のメカニズムとして包括的に理解するために、各遺伝子に対する変異体、RNAiによるノックダウン、そして強制発現系等を併用することによって、TRPC1によって制御される細胞内カルシウム濃度とIIS経路活性が制御する細胞周期をつなぐ分子メカニズムの解明を目指す。
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Causes of Carryover |
当該研究に携わっている大学院生が、海外学会参加旅費のための奨学金を取得して自分で賄うことができたため、当初そのために予定していた額に余剰分が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度にさらに必要となる免疫染色用試薬代として使用する予定である。
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