2016 Fiscal Year Research-status Report
チオレドキシンを介した光合成電子伝達依存的な転写制御機構の解明
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15K07096
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
日原 由香子 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60323375)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 転写因子 / レドックス制御 / 光合成 / シアノバクテリア / 環境応答 / チオレドキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、チオレドキシンとの相互作用スクリーニングにより単離されたSynechocystis sp. PCC 6803の5種の転写因子のうち、Sll1961とRpaBについての個別解析を行った。 Sll1961に関しては、これまでにin vitroにおいてC229とC307がレドックスアクティブであること、チオレドキシンとの相互作用によりこれらの間の分子内ジスルフィド結合が還元されることを見出していた。そこで、Synechocystis sp. PCC 6803を強光照射や阻害剤添加により、光合成電子伝達活性を変化させた条件下で培養し、TCA添加によりレドックス固定して集菌し、チオール修飾試薬PEG-maleimideで処理した後に、イムノブロット解析によりin vivoでのSll1961のシステイン残基のレドックス状態を検出した。その結果、培養条件によらず3つのシステイン残基のうち2個または3個が常に還元条件にあることが明らかになったが、この結果はin vitroでの結果と合致しない。今後、現在行っているレドックス固定方法が妥当であるか検討したい。 RpaBに関してはゲノムワイドな標的遺伝子の探索を行った。バイオインフォマティクス解析によりSynechocystis sp. PCC 6803ゲノム中より、RpaB認識配列であるHLR1を適切な位置に持つ遺伝子を検出することで、RpaBにより正の調節を受ける標的、および負の調節を受ける標的候補約300個をリストアップした。この中には、これまでにRpaBの制御下にあると報告されてきた光化学系関連遺伝子に加え、広義の光合成関連遺伝子が多く含まれていた。現在、いくつかの新規標的候補遺伝子についてノーザン解析、クロマチン免疫沈降解析、ゲルシフト解析等により、HLR1配列へのRpaBの結合と遺伝子発現レベルの変化の関係性を調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
in vitroにおける転写因子のシステインレドックス変化、およびチオレドキシンとの相互作用に関する解析は終了しており、今後はそれらのレドックス変化や相互作用が実際に起きるin vivoでの条件を探すことが最優先課題となる。当該年度までにチオール修飾試薬PEG-maleimideによるシステインのレドックス状態検出系、およびChAPによる転写因子の動態検出系を立ち上げ、in vivoでの転写因子の状態変化をモニターすることが可能となった。しかし、この系を用いて解析を行ったところ、in vitroで検出されたレドックス変化がin vivoで検出できないという問題に直面している。強い酸化剤を培養液に添加する等の酸化還元ストレス条件下で、Sll1961やRpaBのレドックス変化を検出できるかどうか評価することにより、実験系を再検討することが急務である。ChAPの系はRpaBに関しては十分に機能しており、環境条件を変化させた際の動態をモニタリングする準備が整った。しかし、Sll1961に関しては、当初標的候補と予想していた遺伝子上流域へのSll1961の結合活性が見られず、今後genomic SELEX法等により、実際にSll1961が結合して働くゲノム領域を同定する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
Sll1961については、まずin vitroで観察されるシステイン残基のレドックス変化がin vivoで観察されない原因を究明する必要がある。上述のとおり強い酸化還元ストレス条件下で、現在行っているTCA添加による固定方法ではなく、フィルターろ過による集菌・メタノール懸濁を迅速に行うことでのレドックス固定を試す予定である。さらに、実際にSll1961とチオレドキシンとの相互作用が細胞内で起きているのかどうか、Pull downや免疫沈降等の方法を用いて、in vivoでの相互作用単離を行う予定である。また、チオレドキシンとの相互作用の結果を評価するため、Sll1961の標的遺伝子を同定し、その発現レベルを調べることが必須である。 RpaBについてはクロマチン免疫沈降により単離したDNA断片を用いてのChAP-seqあるいはChAP-chip解析により、ゲノム上のRpaBの結合部位を網羅的に探索し、バイオインフォマティクス解析により作成された標的遺伝子候補のリストと比較することで、さらに標的遺伝子の絞り込みを行いたい。また、現在は弱光・強光条件下での応答性を調べているが、光合成電子伝達活性が変動する他の条件下であっても、RpaBの標的プロモーターへの結合能が変化するかどうか、ChAP法によりin vivoでの動態を調べたい。これまでにRpaBのリン酸化レベルとDNA結合能の変化に明確な相関が観察されていないことから、システインのレドックス変化によりDNA結合能が調節されている可能性がクローズアップされた。RpaBに関してもシステイン残基のレドックス変化の検出が今後の重要課題である。
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Causes of Carryover |
翌年度に、ChAP-seq解析を行う予定であるが、学内で次世代シーケンス解析を行うことができない。受託解析による支出が見込まれるため、当該年度の支出を抑制した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
RpaBやSll1961の標的遺伝子を全ゲノムレベルで同定するため、ChAP-seq解析を行う。同定された遺伝子群が、レドックス変化にどのように応答するかモニターすることにより、レドックス制御メカニズムの理解を深める。
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Research Products
(4 results)