2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K07112
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
菓子野 康浩 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 准教授 (20221872)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光化学系II複合体 / クロロフィル合成 / 膜タンパク質複合体 / シアノバクテリア |
Outline of Annual Research Achievements |
光化学系II(系II)の構築過程に関わることが予想された5種の機能未知タンパク質(Slr0172、Sll1398、Slr1128、Sll1099、Slr0399)に関する形質転換に取り組んだ。シアノバクテリアの系II合成の誘導が可能な変異株(系II合成誘導株)と野生株を用い、上記5種のタンパク質それぞれの欠失変異体とC末端へのHis-tag融合体の作出を進めた。系II合成誘導株を親株として、His-tag導入株は全て作出され、Sll1099以外は欠失変異体が作出された。また、Sll1099については、野生株でも完全変異化に至っていないため、必須の因子である可能性がある。さらに別の5種のタンパク質について変異体の作出に着手した。 作出された変異体を用い、細胞増殖、系IIの含量評価等を進めた。Sll0172以外の欠失変異体は、野生株と同様に増殖した。また、液体窒素温度での蛍光スペクトル測定によると、通常培養条件下では成熟型系IIの顕著な低下は認められなかった。そのため、これらタンパク質が系IIの構築に関わっているとしても、他のタンパク質が機能を代替することが予想された。 系II合成誘導株を親株としたHis-tag融合変異体の暗所培養細胞からタンパク質の精製を行った。2種のHis-tag融合株において、精製標品に複数のタンパク質が含まれていた。それらタンパク質の同定により系II構築に関わる因子を得ることが期待される。 高等植物系IIの構成因子PsbPと相同なCyanoPは、シアノバクテリアでは結合量が少ないため、系II構築に関わっている可能性が考えられる。そこでとくにCyanoPのN末端へのHis-tagの遺伝子工学的導入を進めた。CyanoPは翻訳後にN-末端の一部が切断されて脂質が付加されると予想されるため、His-tag導入部位および方法を慎重に決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シアノバクテリアの系II合成の誘導が可能な変異株(系II合成誘導株)を親株として欠失変異体およびHis-tag融合変異体が作出された。Sll1099の欠失については完全変異化が完了していないが、系II構築あるいは細胞生存に必須の因子であることが示唆されるという重要な結果と考えている。系II構築に必須の因子であっても、従属栄養的環境下で完全変異化を達することができる可能性があるので、現在取り組んでいる。得られた欠失変異株を用い、細胞増殖や系IIの含量評価等を進めた。また、His-tag融合体を用いてタンパク質の精製を行い、精製標品中に複数のタンパク質を電気泳動的に確認した。 CyanoPについて、発現に影響の少ないC末端へのHis-tag融合では効果的ではなかったため、N末端への導入を進めた。CyanoPは、翻訳後にN末端の一部が切断されて成熟型になるが、成熟型タンパク質のN末端に脂肪酸が付加されると予想している。成熟型タンパク質のN末端アミノ酸を破壊しないようにHis-tag融合部位を決定し、形質転換のためのコンストラクトを作製し、形質転換体の作出を進めた。 このように、形質転換体の作出が順調に進み、系II構築のタンパク質レベルでの解析にも着手したので、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に作出した各種の変異株を用い、光により光化学系II複合体の構築を人為的に誘導し、系IIの構築初期の部分的集合体を同調的に生産させる。そして、His-tagを導入したタンパク質をアフィニティクロマトグラム等により精製する。このときに精製されてくる「半端な」複合体の構成成分を網羅的に解析する。この解析を行い、系IIが構築される過程でどの順序で組み込まれてくるかを決定することにより、構築過程における各サブユニットの組み込み順序を明らかにしていく。 系IIの構築最初期にあたるD1/D2/PsbI/PsbH部分複合体に結合しているが、成熟型系IIには結合していないタンパク質としてすでに見出しているPsb28やYcfタンパク質など、約10種の機能未知タンパク質について、H27年度中に作出する欠失変異体等を用いて系IIのタンパク質・色素の組成および系II機能の解析を行い、それらの機能未知タンパク質が系II構築に果たしている役割を解明する。またMnクラスターの具体的な形成時期を決定する。 系II複合体の多くの構成サブユニットは、酸素発生型光合成生物の間でよく保存されているが、それぞれのアミノ酸配列には相異がある。別の種の相同遺伝子を導入した株を作成し、その影響を解析する。 得られた結果を総合して、系II複合体の構築過程を総合的に明らかにし、成果の発表を行う。
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