2016 Fiscal Year Research-status Report
雌雄交尾器はなぜ噛み合うのか?~理論と実証からの論争解決~
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15K07133
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
上村 佳孝 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (50366952)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 微細手術 / 卵胎生昆虫 / 交尾器進化 / 熱帯性昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
オス交尾器のみならず,メス交尾器の形態も相関した速い進化を示すことが明らかになりつつある.しかし,この共進化を引き起こす一般的成因は未解明であり,論争が続いている.この論争の解決を目指し,理論研究と昆虫類を対象とした実証研究をおこなっている. 理論面での研究では未だ課題が多く,安定した結果が得られていない.今年度は,作成したシミュレーションの雛形をさらに単純化し,問題点を明らかにすることを試みた.その結果,計算結果を安定させるには,雌雄の形質の突然変異率をある程度の範囲内におさえなければならないが,その場合,進化速度が遅くなり,現実的な時間内で結果を収束させることが難しいことがわかった. 実証研究面では,ショウジョウバエの1種Drosophila erectaについて大きな進展があった.メスの産卵管先端部と,交尾中にこの構造を把握するオスの把握片は、このグループにおいて種間多様性が低い.しかし,これらの構造が交尾の成立に重要であること,また,メス交尾器に見られる膜質のポケットが,交尾時創傷のコスト低減に重要な役割を果たしていることを操作実験から明らかにした.本種のメス交尾器には,硬いシールドも持つが,通常創傷を受けないこの部分を人為的に創傷すると,産卵行動に悪影響を及ぼすことも分かった.この成果については既に論文として発表し,さらに近縁種との比較研究を開始した. また,新たに1種の熱帯性ハサミムシが卵胎生であることを発見・報告した.これまでに卵胎生または胎生と報告されている自由生活型ハサミムシ類全種について,オス交尾器の構造を精査した結果,オス交尾器の伸長がいずれの種類においても観察され,メスの繁殖様式の 変化が,交尾器の進化に重要な影響を及ぼしていると考えられた.さらに,研究の過程で発見されたハサミムシ類の1新種を記載し,これらの成果をもとに和文総説1編を発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論面の研究については,前述の通り課題が残っており,当初の予定より進展が遅れている.しかし,今年度の研究により問題点が明らかになってきたため,今後の研究によりその解決を図っていく. 一方,実証面については,想定していた以上に進展している.ショウジョウバエDrosophila erectaでの研究成果を報告し,近縁種との比較研究の準備も進んでいる.そこでは,雌雄交尾器の左右非対称に着目した解析がなされる予定である. 交尾器の左右性の共進化については,ハサミムシ類の研究も進展しており,来年度にはその成果をまとめ,発表できる見込みである.
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り,理論研究の進展が遅れている.平成29年度は理論研究に対するエフォートをさらに高くしていく.具体的には,より低い突然変異率でも,より多数の個体で,より多くの世代時間の計算がおこなえるよう,プログラムの計算アルゴリズムを見直すと共に,より優れた計算環境の利用を検討する. 一方,今回明らかとなった問題は,現実世界の交尾器の進化についても,重要な示唆をもたらす可能性がある.すなわち,従来のモデルの枠組だけでは,雌雄交尾器が相関して,速く進化し,その状態で安定的な平衡に達することは難しいのかもしれない.これまでの理論で見逃されている可能性のある要因についても,検討していく. 実証研究については,引き続きショウジョウバエDrosophila erectaと,その近縁種の比較研究と,ハサミムシ類の比較研究が中心となる.どちらも螺旋構造を含む左右非対称な交尾器の進化に着目して,研究をおこなっていく.
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Causes of Carryover |
年度開始時点当初の予定より論文出版がはかどったため、英文校閲やページチャージ料金が追加で必要となった。また、出版時期が年度末となり、費用の発生時期の予測が難しかったため、余裕を見込んで前倒し申請することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述の通り、論文出版の予想以上の進捗による前倒し請求のため、本年度の予算使用計画には影響せず、当初の予定通りに研究を進められる見込みである。
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