2015 Fiscal Year Research-status Report
有尾両生類求愛行動を制御する神経内分泌的基盤の解明
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15K07135
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
蓮沼 至 東邦大学, 理学部, 講師 (40434261)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アルギニンバソトシン / アルギニンバソトシン受容体 / プロラクチン / アンドロジェン / 求愛行動 / 視索前野 / アカハライモリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアルギニンバソトシン(AVT)含有ニューロンやAVT受容体に着目し、有尾両生類アカハライモリ雄が繁殖期に雌にしめす求愛行動の発現メカニズムを解き明かすことを目的としている。平成27年度は、まず雄イモリ脳に発現するAVT前駆体遺伝子発現に対する下垂体前葉ホルモンであるプロラクチンと雄性ホルモン(アンドロジェン)の影響を観察した。プロラクチンとアンドロジェンは求愛行動発現に対してキーとなるホルモンである。ともに、行動学的解析から、AVT含有ニューロンを制御をしている可能性が高いと見積もられている。そこで、下垂体前葉および精巣除去手術を施した雄イモリを準備し、プロラクチン、テストステロンプロピオネート単独、または双方を投与し、脳内のAVT前駆体遺伝子発現をリアルタイムPCRおよびin situ hybridizationにて解析した。コントロールとして偽手術個体に生理食塩水を投与したもの、下垂体前葉および精巣除去した個体に生理食塩水を投与したものを設けた。すると、下垂体前葉および精巣を除去すると間脳視索前野でのAVT前駆体遺伝子の発現レベルが著しく低下すること、また、テストステロン投与によって、間脳視索前野での同遺伝子発現レベルが部分的に回復することが明らかになった。さらにプロラクチンは単独では同遺伝子発現への影響はあまり見られなかったが、テストステロンの効果を高める傾向が観察された。しかし、間脳視索前野以外に発現するAVT前駆体遺伝子発現に対しては、これらホルモンの影響は見られなかった。本成果は間脳視索前野のAVT含有ニューロンが主としてアンドロジェンの影響下にあり、プロラクチンはその効果を高める作用がある可能性を示した。また本成果はこれまで共同研究者によって示された行動学的な知見を裏付ける成果となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定であったイモリ求愛行動発現時の血中AVTレベルについて、実際の測定に至っていない。AVTの血中レベルの測定には抗AVT血清を用いた放射免疫測定法が利用されるが、放射性同位元素を使用せずにビオチン標識AVTを用いたELISA法の開発を目指したが、感度および測定系の安定性に欠けたため実用化に至らなかった。今後恒久的に放射性同位元素を使用せずにAVTレベルを測定することは学術的意義はあると考えられるため、AVTの標識方法を再検討し、再度ELISA法の確立を目指す。しかし、ELISA法の開発のみに時間をかけ、学術的に重要な意味を持つ求愛行動発現時の血中AVTレベルの測定をなおざりにするわけにはいかないため、放射免疫測定法による測定も並行して実施する。また、求愛行動発現時に活性化する神経細胞を前初期遺伝子であるc-fosの発現を頼りに解析しようと試みているが、現状ではまだどの神経細胞が活性化しているかを明らかにできていない。現在、抗c-fos抗体がイモリc-fosタンパク質を認識するかをWestern blot法にて解析し、市販抗体と自作抗体がイモリc-fosタンパク質を認識することを確認している。さらにこれら抗体の免疫組織化学的手法への応用について慎重に検討している段階である。やや研究に遅れが生じたが成果は十分に出せると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
求愛行動中の雄イモリ血中AVTレベルの測定および間脳視索前野のAVT含有ニューロンの活性化の有無を明らかにすることが最も優先順位の高い研究課題である。さらに本年度はAVT受容体の研究にシフトし、求愛行動発現に関与するAVT受容体サブタイプの同定を目指す。現在重要な受容体分子としてはV1aタイプ受容体が挙げられる。ノックダウンの手法としてはVivo-モルフォリノアンチセンスオリゴを利用する方法である。抗イモリV1aタイプ受容体抗体を用いてタンパク質レベルで発現の増減を解析する方法の開発も必須条件となる。V1aタイプ受容体のノックダウンが可能となった場合、求愛行動発現への影響を解析することが必要となる。また、V1aタイプ受容体が発現する神経細胞はどのような特性を持つか、どのような脳部位に軸索が投射されているのか、を明らかにする必要性が出てくる。またV1bタイプ受容体およびV2タイプ受容体も脳に発現していることから、同様の手法によって解析することが重要と考えている。これらを比較検討することで、求愛行動発現に関与するAVT受容体サブタイプを同定できると考えられる。 また、最近脊椎動物に4番目のAVT受容体遺伝子(V2bタイプ受容体)の存在が明らかになり、両生類でもネッタイツメガエルのゲノムデータベースよりその存在が示唆されている。我々もアカハライモリで同遺伝子の存在を示唆するデータを得ていため、少なくとも脳で発現しているか否かを解析しようと考えている。仮に脳で発現していることが確認された場合にはV2bタイプ受容体も求愛行動発現に関与するかを明らかにすることも重要なテーマとなる。
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Causes of Carryover |
9706円の次年度使用額が生じたが、旅費や人件費・謝金等が当初計画よりもやや少なく済んだことが理由である。しかし、次年度使用額は少額であり、全体としてはほぼ計画通りと言える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の研究の進展にもよるが旅費や人件費・謝金に充当するか、または必要な消耗品費に充当することを検討している。
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[Journal Article] Possible hormonal interaction for eliciting courtship behavior in the male newt, Cynops pyrrhogaster2015
Author(s)
Toyoda, F., Hasunuma, I., Nakada, T., Haraguchi, S., Tsutsui, K., Kikuyama, S.
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Journal Title
General and Comparative Endocrinology
Volume: 224
Pages: 96-103
DOI
Peer Reviewed
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